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探し物

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橋のたもとに少女がいる――。連載小説です。クランチマガジンに、途中まで載ってます。
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 その日も少女は佇んでいた。

 誰も口をきかない。
 少女も話すことなどない。

 唯一の例外が、あの青年だった。彼だけが頼りだった。

 でも、いつからか彼が来なくなってしまった。

 ――寂しい。
 少女は自分に言い聞かせる。

 ――寂しいね。
 こだまのように少女の耳に、言葉が響く。

  *** *** ***  

 ナオトは本日何回目かの溜め息をついた。

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4

「……ぇ、ねぇってば!」
 クミの声に、ナオトは我に返った。同時に周りの音が耳に入ってくる。
「あ、悪りぃ、悪りぃ。ぼうっとしてた」そう言って、ナオトは氷が溶けて薄くなったアイスコーヒーを飲んだ。
 しばらくすると、またすぐに物思いにふけってしまう。

 ここのところ、仕事帰りに橋にいる少女にあっている。
 二十分か三十分くらい話してから帰るのだけど、まったくもって彼女が記憶を取り戻す気配がな

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3

 昼に降った豪雨が嘘のようだ。
(なんか、すんげぇムカつく夕焼けだな)
 空を見上げてナオトはため息をついた。
 昼に外出する時に運悪く、豪雨に当たってしまったのだ。近くに雨宿りする場所もなく、10分ぐらい雨の中を歩くハメになった。
 積乱雲の雲間から、濃い金色の光が漏れている。
 雲間から覗く東の空は藍色になっていた。もうすぐ、街の方まで藍色に染まっていくのだろう。
 視線の先に橋が見えてきた。

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2

 橋を渡ろうとした時、ふとナオトは傍らにいた恋人から視線を外した。
「……ナオト?」怪訝そうな顔で、恋人のクミが尋ねる。
「いや、何か視線を感じたような気がして……」
「ええ〜?」
 ぐるりと周囲を見渡すが、こちらを見ている人間など誰もいない。
「気のせいじゃないの?」クミはそう言うが、ナオトの表情は曇ったままだ。

 ナオトにはよく、変な気配を感じることがあった。いわゆる霊感というヤツかもし

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1

 少女は闇の中にいた。なにも見えない、ここがどこなのかもわからない。どうしてここにいるのかすらわからなかった。ただ、帰るところはないのだ、と少女は気づいていた。
 それでも、それなりに彼女は幸せだった。

 ある時、少女の前に少年が現れた。少年に声をかけたが、気づかずに通り過ぎていく。
 気づいてほしくてほしくて肩に手を伸ばしたが、少年は霧のように消えてしまった。少女はうずくまり、涙を流した。

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