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Sexy Zone 『POP × STEP』をコロナ禍において再解釈するという試み

2020年2月、東京オリンピック・パラリンピックが開催される予定だった年に、セクゾのアルバム『POP×STEP』が発売された。コロナが世界にひろがりはじめる直前である。つまりアルバムが制作されている頃は、コロナのことなんて全く想定されていなかった。しかし、ファンが聴く頃にはコロナがひろがりつつあり、日本も世界もファンの生活も変わりつつあった。

世界が変わったことによって、東京やJ-POPをテーマにしたこのアルバムの受け取られ方も全く変わってしまった。
セクゾチームは、このテーマに対して聴き手に何を提示しようとしたのか。受け取り方がどのように変化したのか。このアルバムを再解釈する価値があると思ったので、ただの一ファンが批評してみようという試みである。


表面:虚構の日本観を表現した極東DANCE*1


派手なEDMサウンド。赤を基調としたセット。袴をイメージしたような衣装。夜景に映る東京のビル群。ネオン看板。故事成語などを使った歌詞。煌びやかでインパクトのある日本モチーフが映像や歌詞に次々と出てくる。今時、海外の方でも、こんな典型的な日本観を持ってはないだろうと思うぐらいの、現代にも過去にもない虚構の日本イメージだ。

極東は対外的にみた日本を指す言葉である。
世界経済において日本の存在感は弱くなっているし、日本のアイドル業界においても相対的にJ-POPの存在感は弱くなっている。セクゾも例外ではない。アルバムのリード曲 ( =対外的なアルバム代表曲 ) にこの曲を配置したということは、対外的には虚勢を張り、それでもそのような自分たちに誇りを持ちながらアイドル活動を行ってることを表現する、というのが意図ではないだろうか?

裏面:多様な市井の人々の生活が息づく、実体のある街としての東京

表面が虚構だとしたら、裏面は実体である。

楽曲提供者の並びを見ると、tofubeats、LUCKY TAPES、chelmicoなど、丁寧な音作りをする方達という印象を受ける。大衆の知名度は低いかもしれないが、音楽好きにおける知名度は高く、楽曲制作に力を入れている。

アートワークが壊滅的なジャニーズ事務所にしては、珍しく素晴らしいCDジャケットである。ビル群と緑が共存する東京。街の狭い間にある昭和の面影があるような家屋と狭い庭。多摩川の上やもんじゃ屋さんでの撮影。

大都市東京と狭い自然の間で、昔と変わらず市井の人々の生活が綿々と息づいてることを感じる。

Blessed

このアルバムの中でいちばん好きな楽曲である。

真面目に生きてきたけど 何処か空っぽです
虚しさを覚えた僕らは 首を傾げた

この「空っぽ」は人によって違うのだろう。
でも、もれなく皆感じている感覚ではある。

昨日より今日を好きと思えた
it's enough for you right now

忙しなく続く日常の中で、小さな幸せだけは実感を持って感じられる本物である。

世界は僕らを待っていないだろう
(中略)
Never stop, never stop, never, never, never and stop

日常は僕たちが少しつまづいてることなんか関係なく続いていく。世界は資本主義社会のルールの下、途切れることなく続いていくのだ。

日常にコロナが訪れた

そんな日常は、コロナによって一瞬にして混乱と絶望に包まれてしまった。
非正規雇用の人はいつ明日首を切られるかわからなくなった。接客業の人は何の補償も無く、コロナの最前線にいなければいなければいけなかった。病院はコロナ患者を受け入れるほど赤字になった。
日本社会は政治という土台できっちり守られるはずだったのに、コロナ禍で政治は何一つせず、人々の善意だけでなんとか成り立った。いや、成り立たなかった。
政治はとうの昔に崩れていて、日本社会は人々の善意だとか愛だとか絆だとか繋がりだとかそんなものでなんとか表面を繕っていたに過ぎない事が、コロナによって明らかになった。
変わらない日常でさえ、虚像に過ぎなかった事をコロナは明らかにした。


コロナでのオンライン配信

コロナがひろがった3月下旬、ジャニーズはYouTubeにてオンラインライブの無料配信を実施した。
セクゾはトップバッターとして登場した。

そのセトリの中で一つだけ新曲の『MELODY』を初めて披露した。

一緒に歌ってみよう
今覚えたばかりの歌
メロディが君と僕を繋いでいる
MELODY より

6月の有料配信では、知名度の低い『君だけFOREVER』をセトリに入れた。

はここにあるんだよ
しか救えないんだよ
君だけFOREVER より

それぞれの配信のセトリの中で、上記の2曲だけが異質だった。セクゾが、コロナ禍で敢えてセトリに入れたに違いなかった。
セクゾは、ファンに対して「繋がり」や「愛」を強調して伝えた。
でも、2020年、絶望を救うはずだったのは日本政府だった。多くの人が政治に対して声を上げ始めていた。その中でセクゾは、コロナ以前と同じように、政権やジャニーズ事務所と同じ事しか言わなかった。
「繋がり」や「愛」を強調すればするほど、セクゾが政治に対して何も言わない事が浮き彫りになった。

セクゾは、政権と仲良しこよしのジャニーズ事務所にとって都合のいい駒だった。普段から人に寄り添い、「愛」や「繋がり」を音楽や言葉で紡いできたセクゾは、無料配信のトップバッターに登場し、それらをファンやファン以外の人へ伝えた。


それから約2年

『POP × STEP』以降、世間に気づかれてはいないけど、セクゾは良質な楽曲を発表しているように思う。ただ、相も変わらず、発言の言葉尻には保守的な考え方がにじみ出たり、異性愛前提のラブソングを発表したり、少しづつ変わっているかもしれないけど、本質的には何も変わってない。まだ若いし、賢いのだから変わってほしいと願うばかりである。

東京の風景に、日常は戻ってきてるように見える。2020年の頃の混乱は忘れ去られて、参院選では自民党が勝った。今もこの日常の水面下で、日本社会は崩れ続けている。




*1 極東という単語は、現在使われるべきではないが、そのことに関しては一旦置いておく。

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