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光となれ

宇宙ラジオEX。
みーちゃんの話。

星野友月。ほしのゆづき。名前に月と星の両方が入ってるなんて珍しいなと思った。それにしても友で「ゆ」とか、そういうの流行ってるんだろうか。心愛とか、咲希とか。変と言うほど変でもないけど、何かモヤる読みのやつ。まあどうでもいいけど。
最初の印象は「近寄らんとこ」だった。髪型姫カットって。マンガでしか見たことないやつだ。だけど当人は何というか、それ以外は普通の子っぽかった。だから余計にそのイタさが目立つ。いっそ全体的に痛々しかったら「そういうもん」と割り切れるのだけど。ともかく必要外には絡まないでおこうと思い、もうこれはどう考えても安全牌ぽい子に声をかけた。鈴山奈々子ちゃん。名前も容姿もザ・普通。出てない杭バンザイ。そう思ってた矢先だった。「あの子にも声かけてみようよ」と言われたのは。
「え、あの、星野さん……だよね?」
「うん?そうだよ。なんか一人だし」
悪そうな子じゃなさそうだし、とも言ったけど、あたしは困惑していた。鈴山ちゃんよ、何で飛び出ちゃうの?いやまあ、確かに悪い子ではなさそうだけど、でもちょっと痛い髪型とちょっと変な名前だしちょっと、ねえ。とか思っているうちに、鈴山ちゃんはあっという間に星野さんをヘッドハントしてきた。鈴山ちゃんに紹介されて星野さんがこっちに近付いてくる。
「あの、えっと、星野友月です。どうぞ宜しく……」
「お、おう、光久悠紀だよ。よろたのー」
慌ててテンションを作り、適当に笑う。そんな訳で出会っちゃったのだ、光と星月が。それと鈴の音が。

結論から言えば、ここに普通の子なんていなかったんだ。はじめから。リアルだとちょっと浮く姫カットで、ミニキラキラネームのゆず。あまりに平和に過ごせてきたが故に、物事をごちゃごちゃ考える概念が薄いすーちゃん。そして、あたしもまた、言いにくいあれがあったりなかったりする。
「……普通って何だろなあ」
「どうしたの急に」
「いやあ何か、あたしらみんなちょっとずつ変だなって」
「えーそう?」
「みーちゃん頭打った?」
「なっ、失礼だなー!みーちゃんだって哲学したくなる時もあるのですっ」
「ごめんごめん。でも普通、ねえ……」
軽く笑ってたけど、ゆずがちょっと遠い目をする。そして姫カットの横髪を触ってた。たまに見えるその闇のようなものから、つい目を逸らす。そしてまた無難な方へ、話題を強引にでも移してしまう。「普通」の子のようにふるまってしまう。それでゆずも、すーちゃんも、少し安心した顔をするから。

鈴の音、導いてよ。あたし、どうしたらここを脱け出せるの?
星の輝き、教えてよ。どうしたらその闇を晴らせるの?

作家修行中。第二十九回文学フリマ東京で「宇宙ラジオ」を出していた人。