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【詩】セレモニー

「不甲斐ない」なんて言葉が僕の口をついて宙を舞う頃、きみは今日も五線譜に書きつけたばかりの音を街中で弾き倒した。
それが聞こえたカフェのウェイターは鋭く舌を打ち、遠巻きにあれを聞いた通行人Aは、音の鳴った方へ駆け出す。野次馬心にほんの少しの希望を織り交ぜて。
そしてこんな街中に、青紫に輝く蝶。うるさいパトカーのサイレンと忙しない人の流れ。指揮者のいないオルケストラ。魑魅魍魎。
青空で閉じただけの箱庭都市で、深呼吸。不甲斐ない僕にできる数少ない行い。それは深く息を吸うことでも、己を嘆くことでもない。
こんな世界の中でも歌を歌うこと。
カラフルポップな祈りを込めて。

作家修行中。第二十九回文学フリマ東京で「宇宙ラジオ」を出していた人。