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君について

「宇宙ラジオ」に出てくるあの子の話

「現実」ってイジワルだ。だって良いことをしても大概は報われない。昔どこかで聞いた「何とか無力」とかいう、あたし達に与えられた最善手。「諦めこそが教訓だ」それが現実というものだと学んだはずだった。現にその言葉に従い、幸せに生きてきたはずだった。実際、ほどよく幸せだったんだ。それなのに。
「そんなのデタラメだ」と言わんばかりの光を見た。その子は背も存在もちっぽけで、存在にいたってはあたしと同じか、それ以上に弱そうな子なのに、確実に「強く光る何か」を持っていて。
そしてその子は独りで世界を敵にした。「何たら無力」……たぶん、学習性?とにかくそれに沿って考えればこんな子は切り捨てるべきでしかなかった。だってこの子独りに何ができるの。何もできない。できる訳ない。そう学んだから。そしてこういう子の側に居続ければあたしまでとばっちりを食らうことになる。だってそういうもんじゃん。それにどうせ、どうせ。

 あたしは君と違って弱いから。

「……」

諦めこそ正義だと知っていたはずなのに、あの光に当てられたのか何なのか、あたしはその子の側にいることをやめなかった。でもこんなの、悪あがきだ。
「……何が変わるというの」
「……わかんない。でも、可能性はあるよ」
「君のくせに、あたしより頭悪いとか」
「運さえ良ければ良いんだよ」
 頭の中であの子が困ったように笑う。そういえば君は見かけによらずギャンブルが好きなんだっけ。ちょっとだけうらやましいな。最後まで待たずにすぐ諦めるあたしには全然向いてなかったモノ。だってああいうの、上手くいかなかったらどうするんだろ。後悔しないの? 意味わかんない。
 でもそんな、頭がよくてたまに悪くて意味不明な君といた日々は、思ってたよりも。
「……楽しかった、な……」

 つまんない教訓。つまんない正義。全部つまんなくした君のことがちょっとだけ嫌いだけど、それよりもずっと好きだから。そう言ったらみーちゃんはきっと面白がるだろうけど、あの子はどんな反応をするかな。わたわたするかな。
思えば、そういう日々が続いてほしかった。だから側にいたのかもしれない。みーちゃん、君も?あの子もそう思ってくれてたかな?
いつかそれを伝えられたらなあ、なんて思いながら部屋の明かりを消した。今はきっとそんな勇気ないから。あたしまだ、側にいるだけの悪あがきが精いっぱいだから。

作家修行中。第二十九回文学フリマ東京で「宇宙ラジオ」を出していた人。