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【詩】約束

12年目

うたう、ふと
誰もいない青空と草原の狭間
名前も知らない木がひとり
それは「誰か」に入らない
だってそいつは「居る」だけだ
うたうことも、ほほえむことも、
逆らうことも、花を咲かせることでさえ
それがさみしかった
ひとり未満のその木は、ただの景色だった
けれどそいつがいなければ、ここは本当にからっぽのゴミ箱みたいに、ゴミ箱のアイコンがあるあの景色みたいに、アイデンティティもクソもなくなる

だからそのさみしいゼロ人の木は必要だった
ここを液晶むこうがわの世界にしないために
そしてこの景色を護る番人が必要だった
ここには誰もいないから

退屈極まりないその景色は今だ裂かれず、
いつ来ても何一つ変わらない
平和な証拠だと言えば、赤い瞳はため息のダンス
呆れる程の毎日を見つめて、

きみはうたいだす
誰もいない夜空に向けて
名前も知らない木とひとりきり
さみしい、を増やしてしまった
「ごめんなさい」が届かない
その一言を突き立てたくて、
いつかその空を裂いて、
痛みがあふれてしまっても、

きっとここに花を咲かせる日を
誰もいないのも、ひとりしかいないのも、こんなものを「庭園」と嘯いた己自身も、赦しておきたくないから

作家修行中。第二十九回文学フリマ東京で「宇宙ラジオ」を出していた人。