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ロケットの打ち上げが日常の島

種子島に住んでいた時、驚いたのはロケットの打ち上げに関心がない人が一定数いることだ。てか結構いた。肌感覚で言うと、種子島の中でも宇宙センターから住んでいるところが離れれば離れるほど、関心がない人の比率が上がっていく。

打ち上げが身近にあるとは言え、年に数回しか見れるものではない。だからデスクワークしている人も、農業している人も、学校で勉強している子供も、作業を中断して打ち上げ時は外に出て空を見上げるものだと、島に来る前は思っていた。

しかし、そんなことはまったくなかった。わざわざ外に出て見たりしない。それくらい打ち上げは島にとって当たり前の風景。

知り合いの高校生に「ロケットの打ち上げがある時、授業中断して屋上行ったりしないの?」と聞いたら、「授業中に窓がカタカタ揺れ始めて、今日打ち上げがあったことを思い出した。」と回答された。ちなみに、窓が揺れるのはロケットの轟音のため。種子島にあるどこの建物の窓も、大抵振動で揺れる。それくらい音がすごい。

だから打ち上げ日程が近づこうが、島の人は動じない。一方で、移住したばかりの自分は日に日にソワソワしていく。種子島ローカルの人との差が鮮明に浮き彫りになる。まだまだ自分は島の人になっていないなと思い、少し落ち込んだこともあった。


だが、時は流れるとそんな自分も島に馴染んでいく。初めはロケット打ち上げのたびに見学へ行ったが、贅沢なもので何回も見ていると感動が薄れていく。そして、ついに自分も島民になるチャンスがきた!

島に来てから、2年目の終わりか3年目くらいだったと思う。ロケットの打ち上げが土曜日の午前中にあった。打ち上げを近くで見るため、前の晩に目覚まし時計をセットした。土曜日の朝、予定通りアラームで起きたがまだ眠い。打ち上げ見に行こうか、もう一回寝ようか考えた結果、またいつでも見れるし別にいいかと思い寝ることを選択。速攻、二度寝した。二度寝から起きた時はもう打ち上げが終わっていた。

このことは、自分に謎の自信というか快感を与えた。自分もようやく島の人になってきたと思い嬉しかった。


その日の午後、町で職場の人にたまたま会い、二度寝の経緯を自慢気に話した。「今日の打ち上げ観に行こうか悩んだんですけど、眠かったんで二度寝しちゃいましたー。」と。ちょっとイキってる中学生さながら「俺、今日授業サボっちゃたぜ。」みたいな感じで。自分は「おっ!島の人になってきたねー。」というレスポンスを相手に期待している。

だがここで、想定外の返答を受ける。



「えっ!?今日打ち上げだったの!?」



これには自分もズッコけた。やられた。完膚なきまでの敗北。二枚も三枚も相手が上手だった。自分は全然まだまだ島民でなく、ソトモノでした。


超絶長い前振りであったが、この話はもちろん笑い話でもあるが、自分の中で「ソトの人が観光資源だ!と言っても、実際に住んでいる人が興味なければ、それは持続可能な観光に結びつかない」という大切なエピソードになっている。

今回の種子島のロケットの例であれば、島の人が興味なければ、観光 PR をするにしても話に嘘が混じることになる。仮に宣伝が成功したとしても観光客側からすると、実際来たら全然盛り上がってない、聞いていたのとちがうと満足度が下がることになる。一方で、島側もあまり興味のないことをすることになるのでしんどくなる。続かなくなる。他の地域においても、種子島で言うロケットがメインになってしまっている地域は多いと思う。

ではどうすれば良いの?の回答が「地域の人が本当に大切にしているものは何か、それを見つけて育てていくこと」。これは過去に参加したローカルベンチャーラボという場で得た学びでもある。自分は観光分野でこのラボに参加していたが、観光に限らず他の分野でも同じことを言っていた。

こう書くと、宇宙とかロケットを否定しているように感じてしまうかもしれないが、そんなことはまったくない。自分は大好き。ロケットの夜の打ち上げは感動するくらい綺麗で見てもらいたい。ただ、種子島において、観光や地域づくりの核とはならない、ということが言いたかっただけです。


そう言えば、「今日打ち上げだったの!?」と言った人は観光従事者だった。それはそれで良いのかは分からない。うん、絶対ダメだろう。

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