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黒澤明『どですかでん』と宮藤官九郎『季節のない街』を見比べてみた
8月9日から宮藤官九郎企画・監督・演出のドラマ『季節ない街』がディズニープラスで全10話一挙配信開始しました。
僕は、宮藤さんに取材したため事前に見せてもらいましたが、大好きな宮藤作品の中でも僕的には上位に入る大傑作!超オススメです!
で、取材にあたり『季節のない街』全話はもちろん、山本周五郎による同名の原作小説も読み、それをもとにした黒澤明の映画『どですかでん』も恥ずかしながら今更初めて観ました(ちょうど『刺さルール』で太田さんも絶賛していたので気になっていました)。
なので宮藤版ドラマ→原作小説→黒澤版映画と、多くの人とは逆の順番で摂取したのですが、いずれもめちゃくちゃ好きなタイプの作品で面白かったです!
と、いうわけで黒澤版映画『どですかでん』(以下「黒澤版」または「映画」、『どですかでん』)をベースに宮藤版ドラマ(以下「宮藤版」または「ドラマ」)や山本周五郎の原作小説版(以下「原作」または「小説」)と見比べながら、場面に従って感想を書いていきたいと思います。
なお、『どですかでん』は、現在「U-NEXT」等で配信されています。以下、『どですかでん』と原作に関してはネタバレあり、ドラマ版に関しては少しだけネタバレあり、です。
■六ちゃん登場
![](https://assets.st-note.com/img/1691482812332-4E5Sw6oYZQ.png?width=1200)
映画で主人公に据えられている六ちゃん(頭師佳孝)が登場。けたたましいお経を唱えているのがその母役の菅井きん。僕はウンナンの番組などで完全に完全に「おばあちゃん」の風貌になった晩年しか知らないからちょっと新鮮。
部屋の窓には電車の絵がたくさん描かれている。この色鮮やかな家や街は宮藤版にも踏襲されているのだけど、宮藤版は家自体に電車の絵が描かれていてすごく印象的。
文句を言いながら軍手をして、目に見えない道具一式を持って「いってきます」と敬礼をしながら“電車”に向かう。一応補足しておくと電車は六ちゃんの頭の中にだけある架空のもの。
発車し「どですかでん」と言いながら街を行く六ちゃん。この原作を『どですかでん』というタイトルにするのはさすがのセンス。
原作にはこうある。
「どですかでん、どですかでん」
これははじめ、どで、すか、でん、と緩徐調でやりだし、だんだんに調子を早めるのである。つまり、車輪がレールの継ぎ目を渡るときの擬音であって、交叉点にかかると次のように変化する。
「どでどで、どでどで、どですかでん」
これは交叉する線路の四点の継ぎ目を、電車の前部車輪四組と、後部四輪とが渡る音であった。
武満徹による音楽もとてもいい。そして、見れば見るほど、今、六ちゃんを演じるのは濱田岳しかいないと感じる。
■街の人々が登場
六ちゃんが“電車”で街を行く通り道に、たんばさん、増田益夫&河口初太郎、島さんとワイフ、沢上夫婦、かつ子と叔父、平さん、ホームレス親子といった主要人物があらわれて、その人物の紹介になっているという構成が巧い。後半は六ちゃんの姿は省略されるがきっと通っているんだろうなと思わせる自然さ。
中でも印象的なのは伴淳三郎演じる島さん。宮藤版では藤井隆がキャスティングされた。喜劇役者のバンジュンのところに藤井を持ってくるのがニクい。島さんにはある“持病”がある。
顔面神経痙攣とでもいうのだろうか、時をおいて顔にデリケイトな痙攣がおこり、同時に、喉の奥のほうからなにかがこみあげてき、喉を這い登って「けけけけふん」というふうな音になって鼻へぬけるのであった。
向いあって見ていると、まず片方の眉がつりあがり、眼がすばやいまばたきをする。これが痙攣のおこる前触れなのだが、初めはたいていの人がウィンクされたように感じて狼狽するようだ。
最初に宮藤版を見たから、この原作の描写も知らなかったので、かなりオーバーに藤井流のギャグ的要素を入れたのかと思ったが、バンジュンも負けず劣らずの痙攣っぷりで面白い。
その島さんのワイフもど迫力。この丹下キヨ子が演じた役を今なら誰が合うのか、悩ましかったはず。年齢をど返しすれば、柴田理恵あたりかなと思うけど、藤井隆とのバランスを考えると合わない。で、LiLiCoを選んだのは本当に神キャスティング。
夕日が落ちる街を「どですかでん」と走り、街の1日が終わる。
■小屋の平さん
『どですかでん』はオムニバス形式の原作を群像劇に構成しなおして描いている。
まず焦点をあてられたのが平さん。
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黒澤版には描かれていない宮藤版の主人公・半助と数少ない交流のある人物と原作には描かれている。が、宮藤版には、この平さんのエピソードは省略されている。これはちょっと意外で、理由を聞いてみたかった(取材は短い時間だったから聞けなかった)。
芥川比呂志演じる平さんはほとんど台詞がなく、無表情。だが、目力がもの凄い。もし今、演じるなら板尾創路あたりかなあ。
■初太郎&益夫
原作では書かれた時代もあり、女性蔑視的な描写も少なくなく今の時代だとそぐわないものもあるけれど、河口初太郎・良江&増田益夫・光代両夫婦のエピソードは牧歌的でもあり、ある意味進歩的。とても好きなエピソード。
それぞれの夫婦が向かいに住んでいるのだけど、その家も衣装もハッキリ黄色と赤で色分けされていて、その表現の仕方が面白い(宮藤版もそれに倣っている)。
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2人はいつも酒を飲んでいて酔っ払い演技。黒澤版では井川比佐志&田中邦衛が演じているのだけど、宮藤版では増子直純&荒川良々。
両方を見て荒川良々の演技が実は田中邦衛の演技の仕方に似ていることに初めて気づいてハッとした。
「また胸が鳴りだしたかい」
「胸が、――ああ胸か」 増田は衿をひろげて、胸毛のところをさぐってみ、ふしぎそうに首をひねった、「へんだぞ、ことんとも音がしねえ、心臓も酔っちまったかな」
「どら、あたしがみてあげる」 良江はすり寄って、彼の胸へ手を伸ばし、濃い胸毛を好もしそうにまさぐった、「――搏ってるじゃないの、こんなに、ほら、どきんどきんって、――ずいぶん強い動悸だわ、あたしの手をはね返しそうだわよ」
「だわよ、とござったな」 増田は躯をねじった、 「おめえのはどうだ」
「自分でみてみなさいな」
![](https://assets.st-note.com/img/1691483638943-B9pTQxCdQs.png)
この増田と河口の妻・良江が関係を持つシーンの黒澤版と宮藤版の描写の違いに作家性があらわれていてとても興味深い。
■ホームレスの親子
原作でもとりわけ哀しいエピソード。
やはり黒澤版でも宮藤版でも非常に重要なポイントに置かれて、ひとつの軸として要所要所に使われている(宮藤版は主人公・半助をかかわらせることによって、さらに無情感が増している)。
※ここからは宮藤版『季節のない街』のネタバレが濃くなっていくので承知の上で読んでくださいという意味合いで有料にします。
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