無題

「残念ながら……」

全部やれ。』ができるまで(3)

散々横道に逸れたけど、日本テレビの話だ。
2009年から、年明けに放送されている『新春テレビ放談』(NHK総合)という番組があります。テレビにまつわる様々なことを語り合うトーク番組。
その中で、毎年、人気バラエティ番組ランキングが発表されます。

このランキングを見ても、日テレの強さがよく分かる。
けど、僕はここにランクインしている番組を正直ほとんど見ていない(全部ではないけど)。
苦手なんです。
「テレビっ子」を自称しているにもかかわらず、恥ずかしい話だとは思う。
これらの番組は、実際に見れば間違いなく面白い。
事実、好きなゲストが出る時に見ると、ちゃんと面白い。
けど、なぜか積極的に見ようとは思えなかった。
その理由を言葉にするのは難しいのだけど、ひとつあえて言葉にするなら「人間味」をあまり感じないことでしょうか。

そんな僕が「日本テレビ」について書く。
大丈夫だろうか?

テレビの種火

同じ頃、「文春オンライン」が立ち上がりました。
それまで文藝春秋社の各雑誌で独自のWEBサイトなどはあったけど、それを統合し、WEB事業を強化しようという目論見なのでしょう。
で、オンライン編集部に呼ばれてびっくり。
編集長以下、立ち上げのオンライン編集部員全員が、僕はそれまで文藝春秋社の各雑誌等で仕事をご一緒した人たちだったのです。
そんなわけで、ありがたいことにオンラインでも連載開始が決定。
どんな連載がいいか話し合う中で、僕が是非やりたいと案を出したのが、「色々なジャンルの“テレビっ子”な著名人にテレビについて聞く」というインタビュー連載でした。
これは現在も「テレビっ子」シリーズとして不定期に続いていて、もうすぐ15人目が公開される予定です。
その1回目のゲストは、ヒャダインさん。
まったく迷うことなく、真っ先に挙がった名前でした。
ヒャダインさんは、『久保みねヒャダこじらせナイト』や『TV Bros.』の連載でもテレビについて色々語っていますし、何より前述の『新春テレビ放談』での語り口は絶品(というか彼がいなかったら、番組がどうなってたか…と思うような回も)。
そんなわけで、オファーしたところ快諾してくださり、思ったとおり、キレッキレのテレビ論を語ってくれました。このシリーズの方向付けをしてくれたといっても過言ではありません。

前編: http://bunshun.jp/articles/-/1236
中編: http://bunshun.jp/articles/-/1237
後編: http://bunshun.jp/articles/-/1238

そこで僕は、『TV放談』のランキングと、テレビっ子の好きな番組とは乖離があるんじゃないかということを聞いてみました。するとヒャダインさんはこのように答えます。

「そうなんですよね。でも一般的にはそういうことなんだなと思いました。マスはこっちが好きなんだなと。マスが好きなものを供給している日テレというのは大したものだなと思いますね。だからいい意味で日テレって物凄く“下品”なんですよね。みんなが欲しいものをリサーチして、なりふり構わず出すという。そこにプライドもへったくれもない。あの感じがランキングにも出ていて、逆にぼくは非常に好感が持てました。内容云々は抜きにして、ビジネスとしてちゃんとやっている。テレビの種火を消さないようにしてくれているじゃないかと思います」

「いい意味で下品」という言葉に合点がいき、「テレビの種火を消さないようにしてくれている」という指摘にハッとしました。
確かにそうだ。
もうテレビはダメだ、などと言われている時代に、日本テレビはそれでも歯を食いしばって、下品とも言われるくらいのサービス精神で、視聴者に見やすい番組を提供し続けている。
世間とテレビをギリギリでつなぎとめている。
それに気づいた時、やっぱり日本テレビについて書きたいと改めて思ったのです。

恩讐の彼方に

現在の日本テレビの強さの源流は90年代にある。
82年から絶対王者に12年もの間君臨し続けたフジテレビ。
それを逆転したのが94年。

その当時、編成局長として日本テレビを指揮し、その後日本テレビ社長にまで登りつめたのが萩原敏雄さん。
90年代の日本テレビを描く上で是が非でも話を伺わなければならない超重要人物だ。
だが、既に現役を引退なさっている。
取材は難しいのでは、という感触。
僕はどうしてもお話を聞きたい旨、手紙を書いた。
なんと、答えはOK。ご自宅に招いていただいた。
家にあがらせてもらうと可愛らしい小犬が、突然の訪問者に抗議するように鳴いていた。
「ほら、静かにしなさい」
萩原さんがたしなめると、すぐに静かになり、足元にちょこんと座った。可愛い。

「超」がつく大物に緊張しながらも、僕は単刀直入にフジテレビに勝てた要因は何かという質問をした。
すると萩原さんは、「残念ながら……」と前置きして、本書で明かすある人物の名を挙げた。

「残念ながら……」

僕は、この一言に痺れた。
そして、これから書く本は、そういう本だ、という確信めいたものが生まれた。
つまり、この「残念ながら……」という一言には、“人間”が宿っていると思ったのです。
愛憎、恩讐、葛藤……。
人間の思いが詰まっていた。
テレビは人間がつくっている。その当たり前の事実がくっきりと輪郭を持って迫ってきて震えた。
テレビ屋たちのそうした思いを描きたい——。

この瞬間、『全部やれ。』の方向性はハッキリと決まったのです。


そんなわけで、この本のプロモーション企画の第1弾として対談をやりたいと、その相手に真っ先に挙がったのも、やはりヒャダインさん。
その対談(というよりヒャダインさんインタビュー)が、本日よりこちらで公開されました!

ヒャダインが語る「“常勝”日テレの凄さと“エグさ”」‐文春オンライン

明日、明後日と3回に分けて掲載されます。
相変わらず、ヒャダインさんキレッキレです!

全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』好評発売中です!     重版決まりました! 



サポートいただけるとめちゃくちゃ助かります!