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「事実を積み重ねる事が必ずしも真実に結びつくとは限らない」けど、「全部聞け。」

「この番組は当時放送が禁じられていたある番組の“お蔵入りテープ”を発掘し再編集したものである」
そんな不穏なテロップと共に始まったドキュメンタリー番組。それはありがちな大家族への密着だった。幸せそうな親子9人の家族が、毎朝の日課だというラジオ体操をしている。いまの家族の悩みは一家の主である父が、足を怪我してしまい休職中であること。また、他の家族もそれに連鎖するように怪我することが続いている――。
テレビの良さのひとつには「たまたま出会う」ことがよく挙げられる。
ザッピングしていてたまたま目に入った番組、眠気眼に、あるいは、眠れない夜につけっぱなしにしていたテレビから流れてくる番組。そんな中に自分にとっての“お宝”が潜んでいることがある。
この『放送禁止』(フジテレビ)はまさにそれだった。
大家族密着は次第に不穏さを増していく。実は三男が近所の川で溺死していたこと、父が長女に暴力をふるっていること、家のポストに何度となく不審な心霊写真が入っていること……。
これって、ドキュメンタリーだよね?
でも、なにかおかしい……。
そんなことを思っているうちに、鳥肌もののエンディングを迎えるのだ。眠れなくなるほど、怖い……!
結論を明かせば、最後に「この番組はフィクションです」とテロップが流れるとおり、いわゆる「フェイクドキュメンタリー」。しかし、劇中に専門家が登場しリアルデータ(統計)が示されるなど、仮にフェイクとわかって見ても社会派ドキュメンタリーとしても高い完成度で、そのリアリティに釘付けにされてしまう。明確な“種明かし”はされないまま終わるが、その映像の隅々に真相に迫るヒントが散りばめられているため、巻き戻したり一時停止しながら、何度も繰り返し見る手を止められない。
番組冒頭にはもうひとつこんなテロップが流れる。
「事実を積み重ねる事が必ずしも真実に結びつくとは限らない」

この番組は一部ですさまじい反響を呼んだ。放送翌日の視聴者から寄せられた電話は、ド深夜の番組にもかかわらず、その日放送された全番組の中でも突出していたという。しかも、その大半が「一体なにをやりたんだ!」というクレーム。だが、それ以上の熱で、絶賛する声も少なくなかった。
ちなみに『放送禁止』を僕が初めて見た、この大家族ものは第2弾。2003年4月1日から始まった『放送禁止』シリーズは、現在のところテレビでは第7弾まで放送。2008年からは劇場版も制作され、こちらも3本が公開されている大人気シリーズだ。
テレビ版第4弾放送時には、あまりのクレームの多さに局の上層部が問題視し、番組の映像を見せろと迫ったという。だが、番組を見た上層部は、それを見た後に言った。
「新しい手法であり、大変面白かっった」
昨年まで放送されていた著名人たちが主にフジテレビのコンテンツを語る『放談ナイト』でも、「またか」というくらい『東京ラブストーリー』や『101回目のプロポーズ』並の頻度で紹介された。それくらい、ひとたび見てしまうと語りたくてたまらなくなる魅力を持った番組なのだ。

このシリーズの作・演出は、長江俊和。
フェイクドキュメンタリーというと99年に公開され大ヒットした映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が思い出される。
実際、『放送禁止』もこの映画のヒットを受け、企画が通ったものだろう。それを証明するように第1弾は、男女4人が「廃墟ビルで肝試し」するところから始まる。
しかし、ことフェイクドキュメンタリーという手法に関しては、長江のほうがむしろ時代を先取りをしていた。
長江は、テレビドラマのスタッフとしてキャリアをスタートしていたが、『NONFIX』のプロデューサーからドキュメンタリーのディレクターをしてみないかと声をかけられ、ドキュメントを制作する。
なんと、その題材が当時「東京に大地震が来る」と予言し世間をざわつかせていたカルト的思想団体「古代帝国軍」(ザイン)。この作品はいまだに一部で“伝説”になっている。参考: http://originalnews.nico/77856
その後、『大家族スペシャル』などのディレクターを経て、96年、ついに長江はドラマとドキュメンタリーを融合させた番組を制作する。
それが『FIX』だ。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の3年前である。
さらに97年、いまでも根強いファンを持つ『Dの遺伝子』で彼のフェイクドキュメンタリーの手法は洗練されていく。
99年にはフジの看板番組のひとつであった『SMAP×SMAP』内の特別企画として「SMAPの香取慎吾が、女子高生を人質に山荘に立て籠もる」というフェイクドキュメント「香取慎吾2000年1月31日」を制作。なお、『ブレア・ウィッチ~』の日本公開が12月23日。それに先駆けること10日前の12月13日に放送された。いまに通じるテーマを扱った名作である。
詳しい内容はこちらを参照してほしい。
▶「知っていることがすべて真実とは限らない」香取慎吾の報道されなかった“真実”

そうした下地のもと、フェイクドキュメンタリーの傑作『放送禁止』が生まれたのだ。
長江は、さらに小説版の『放送禁止』といえるルポルタージュの形式を使った小説『出版禁止』『出版禁止 死刑囚の歌』なども執筆。
そんなオリジナル小説の中から『東京二十三区女』が、2019年にWOWOWでドラマ化されることも発表になった。
https://www.wowow.co.jp/drama/tokyo23ku/

で、僕は長江さんの作品が大好きで、ずっとお話を聞いてみたいと思っていました。
なのでとある媒体にインタビューの提案もしましたが、タイミング等が合わず実現することができませんでした。
だったら、自分でやっちゃおう!
幸い、僕が末席で参加しているクイズサークル「クイズ夜会」で本屋さんでのトークイベントが企画されていました。
そこで、長江さんに公開インタビューするようなトークイベントをやってみたい、と提案したら、「クイズ夜会」が協力をしてくれ、実現したのです!
それが、1月21日(月)19:30から文禄堂高円寺店で行われる<てれびのスキマの「全部聞け。」 ー長江俊和『放送禁止』『Dの遺伝子』から『出版禁止』『東京二十三区女』までー>です!
https://peatix.com/event/584175?lang=ja

もちろん、長江さんの長いキャリアを限られた時間で全部は聞けないとは思いますが、テレビ界においても出版界においても唯一無二な長江俊和さんの創作の現場の一端は伺えるはず!(もし、これは聞いてほしい!というのがありましたら、コメントお寄せいただければ!必ず聞けるとはお約束できませんが)
なお、イベント終了後には著書のサインにも応じてくださるそうなのでこの貴重な機会に是非!
この企画が成功すれば、シリーズ化もできたらいいなあと思っていますので、少しでも興味のある方は是非お越し下さい!


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