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第三話/青年ソドム③【呪いの箱庭】

〈16/混濁〉


「……」

 ここは、どこだろうか。

 暗くおぼろげな意識の中、グザヴィエは目を覚ます。自分は何故ここにいるのか、今まで何をしていたのか、不思議と記憶にない。夢でも見ているのだろうか。そう思った、次の瞬間だった。

「グザヴィエ」

 どこかで自分を呼ぶ声がする。なんだ?どこだ?わからない。鼓膜を震わせる音も、視界に入る姿もどこにもない、言うなれば意思が、誰かの意思が直接脳に響くような、

「……」

 ゆっくりと、視線を上げる。

「ルノー?」

 僅かに見えた視線の先に、小柄な人影が見えた。褪せた小麦色の髪の青年、ルノーだ。

 彼はこちらをじっと見つめ、動かない。

「ルノー!」

 手を伸ばすが、それはいとも簡単に振り払われる。徐々にはっきりト見えてくる侮蔑の視線に、戦慄した。

「な、なあ。ルノー? どうしたんだ、」

「嫌いだ」

 え、と不抜けた声が漏れる。唖然とするグザヴィエに構わず、彼は更に追い立てる。

「君なんて。嫌いだ。大嫌いだ」

「ルノー? なんだよ急に、」

「気持ち悪い」

 びくり、とウザヴィエの体が震えた。

「いつもいつも僕ばっかり。ことあるごとにルノー、ルノー、ルノーって。まるで乳離れのできない子どもじゃないか。いいや、そっちの方が純粋な分タチが良いね」

 濁った視線が、グザヴィエを射止める。

「僕が、知らないとでも思ったの?」

「知ら、」

「君が僕を見るその汚い目、穢れた目、最低だよ。心底君を軽蔑するよ」
 恨みの籠もった緯線だけを残し、ルノーは踵を返す。

 待ってくれ。

 スタスタと遠のく後ろ姿に、グザヴィエは手を伸ばした。

「ごめん、ごめん!ルノー! それが、悪かった。もう何も、何だって考えない」

 お願いだ。

「行かないでくれ……」

 体中が闇に飲まれ、意識が混濁していく。そんな中でも、ただ一人、ルノーだけを見つめ、必死に手を伸ばしていた。それが届かないと、分かっていても。


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