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電力業界の今を紐解く

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電力業界の有識者に寄稿いただいた玉稿です。
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2023年12月の記事一覧

電力システム改革:錯綜する電力諸政策/所要費用と国民負担

             阪本周一(公益事業学会会員/東急株式会社) 前書き 東日本大震災、福島第一原子力事故以前の電力政策においては、「安定供給(ベストミックス、ネットワークの健全等カバーする分野は多い)」、「経済性のある価格維持による消費者保護、経済界の国際競争力」が主目的であった。実施に関わる施策は概ねシンプルであり、劇的な外部環境変化を想定もしておらず、経営者達は長期的視点と関係業界事業者間との信頼関係の中で物事を進めることを重視した。穏やかな時代であった。  大震

東京電力パワーグリッドのサイバー・フィジカル融合社会システムの恒常性調節への取組み: 産業革命を世界に燎原の火のように広げるMESH構想

東京電力パワーグリッド 取締役副社長執行役員最高技術責任者 岡本浩 1.はじめに カーボンニュートラルへのエネルギー転換、AI、ブロックチェーン、5Gなど指数関数的に進歩するデジタル技術、そして一部の国で進行する人口減少が、エネルギー産業を大きく急速に変貌させつつある。日本では「Society 5.0」と呼ばれる第4次産業革命はすでに始まっており、その実現にはデジタル化による電気事業の変革が必要となる。 電力網とデジタルインフラの間には強い相互依存関係がある。出力が変動

卸電力市場に負の価格(ネガティブプライス)を導入するメリットはあるか

戸田 直樹:U3イノベーションズ アドバイザー     東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 1.はじめにわが国では、太陽光発電、風力発電などの自然変動性再生可能エネルギー電源(VRE)の導入拡大に伴い、電力需要が小さい春秋等、電力の供給が需要を上回ることが予想される時間帯に、優先給電ルール[1]に基づくVREの出力制御が増加している。VREは燃料が不要で限界費用はほぼゼロと見做すことができるため、出力制御はなるべく行わないことが合理的であり、現行の優先給電

将来のエネルギーマネジメントにおける需要サイドの役割

東京電力パワーグリッド 取締役副社長執行役員最高技術責任者 岡本浩 これから進む発電側の脱炭素化と需要側の電化・AI/機械学習(ML)による自動化の進展により、カーボンニュートラルと第4次産業革命が同時実現されると想定されます。 現在のエネルギーマネジメントの仕組みは左図の通り、変動する需要に合わせて火力発電や揚水発電を調整することで電力系統内の需給バランスを保っています。電源の脱炭素化が進むと、ベースロード電源である原子力、水力、地熱、潮力に加えて、出力が変動する太陽