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電力業界の今を紐解く

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電力業界の有識者に寄稿いただいた玉稿です。
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2022年7月の記事一覧

【容量市場を考える座談会】後半:ディスカッション 2020年11月19日

U3I:改めて皆様にいくつかご質問していきたいと思います。まずは、落札価格が適正だったのかどうか。一部では「濡れ手に粟だ」という発言や報道もありましたが、価格が適正ではなかったという認識があったのだと思っています。では適正な価格とはいくらくらいを指すのか、どうやってそれを算出するのか、といった点についてご意見をいただきたいと思います。 さらに付け加えると、市場メカニズムを利用する以上、前提としてユーザーがいると思いますが、今回目的とする系統のアデカシー確保の最終的な受益者は

容量市場/Energy Only Marketと信頼度基準について(上) 2021年01月19日

#本稿は、第9回公益事業学会政策研究会(電力)シンポジウム「電力自由化20年の検証と2050年への展望」(2021年1月18日)におけるプレゼンテーション内容に加筆したものである。 【はじめに(再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォースによる意見)】 内閣府に設置された「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が「容量市場の対する意見(以下「TF意見」)」を公表した。当該意見において、容量市場の必要性について次のように指摘されている。 『

容量市場/Energy Only Marketと信頼度基準について(下) 2021年01月19日

【Energy Only Marketを補完する仕組み】 (上)で述べたとおり、Energy Only Marketにただ委ねるだけで確保される供給力の量は過小であるので、別途人為的な措置を組み合わせてEnergy Only Marketを補完している例がある。 例えばドイツでは、系統運用者が需給が特にタイトな時に限って稼働させる戦略的予備力[5]を確保し、稼働した時のインバランス料金を極端に高く設定している。ドイツ経済エネルギー省(2015)によると、その価格は最低2万ユー

この冬の電力需給のひっ迫と電力市場価格の高騰について 第1回 市場価格高騰は異常事態であったのか 2021年02月22日

【はじめに】 2020年年末から2021年年始にかけて発生した電力需給のひっ迫と電力市場価格については、経済産業省の審議会は勿論、内閣府の再エネ規制総点検タスクフォース(以下「再エネTF」)でも取り上げられるなど関心が集まっている。今回の事象は、東日本大震災後に競争促進に大きく舵を切って進められた電力システム改革の課題をいくつか顕在化させたものと考えられ、今後の電力システム議論に重要な示唆を与えるものと考える。 本件については「異常事態である」とか「市場構造、市場制度が原因で

この冬の電力需給のひっ迫と電力市場価格の高騰について 第2回 市場構造、市場制度に関する指摘 2021年02月22日

今回起こった事象について、市場構造の問題であるとか、市場制度が不備であると言った指摘が、再エネTF周辺からなされている。これについて愚見を述べる。 【はじめに 市場構造の問題とは】 市場構造についての指摘として、以下の2つのコメントを取りあげる。 一つ目は、2月3日の再エネTFにおける川本委員の発言を報じている日経エネルギーNextの記事(中西(2021))から引用する。 『タスクフォースは売り入札不足による玉切れが高騰の最大の要因と分析している。メンバーの川本明・慶

この冬の電力需給のひっ迫と電力市場価格の高騰について 第3回 テキサスで10年ぶりの輪番停電 日本は燃料調達のリスクにどう対処するか   2021年03月02日

【はじめに 再エネTF提言について】 2020年年末から2021年年始にかけて発生した電力需給のひっ迫と電力市場価格について、第1回、第2回では内閣府再エネ規制総点検タスクフォース(以下「再エネTF」)周辺から提起された「異常事態である」「市場構造の問題である」「市場制度が不備である」といった論点を考えてみた。率直に言ってこれらの論点提起は、一部関係者の利害には影響するものの、筆者は本質的な問題とは思わない。 他方で、再エネTFの2月3日会合で公開された緊急提言は、今般の

第1回「再エネ主力電源化に向けた挑戦者たち」座談会 2021年03月15日

株式会社レノバ 代表取締役社長CEO 木南 陽介様 ネクストエナジー・アンド・リソース株式会社 代表取締役社長 伊藤 敦様 イーレックス株式会社 代表取締役社長 本名 均様 (以下、敬称略) <各位のプロフィール> 木南 陽介 Yosuke Kiminami 株式会社レノバ 代表取締役社長CEO 京都大学総合人間学部人間学科卒業 学生時代から環境に対する問題意識を持ち、環境政策論と物質環境論を学ぶ。 大学卒業後は、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、

第2回「再エネ主力電源化に向けた挑戦者たち」座談会 2021年03月22日

自然電力株式会社 代表取締役 磯野 謙様 千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役 馬上 丈司様 株式会社エネファント 代表取締役 磯﨑 顕三様 (以下、敬称略) <各位のプロフィール> 磯野 謙 Ken Isono 自然電力株式会社 代表取締役 大学卒業後、株式会社リクルートにて、広告営業を担当。その後、風力発電事業会社に転職し、全国の風力発電所の開発・建設・メンテナンス事業に従事。2011年6月自然電力(株)を設立し、代表取締役に就任。 慶應義塾大学環境情報学部卒業。

今冬の電力需給逼迫をどのように見るべきか(その1) 2021年04月15日

市村 健:エナジープールジャパン株式会社 代表取締役社長 (エネルギージャーナル社『環境とエネルギー』2021年2月18日付からの転載) コロナ禍が一向に収まらない中の年末年始から一か月にかけて、電力関係者にとっては稀に見る危機的状況が続いた。主観ではあるが、2011年東日本大震災以降では最も過酷な系統運用だったと感じている。仕事柄、各電力会社の「でんき予報」は毎日チェックするが、異変を感じたのは1月3日だった。東京電力PG管内の予備率が、正月三が日の日曜日であるにも関わら

今冬の電力需給逼迫をどのように見るべきか(その2)2021年04月16日

市村 健:エナジープールジャパン株式会社 代表取締役社長 (エネルギージャーナル社『環境とエネルギー』2021年3月4日付からの転載) 前回は、中長期的視点で今冬の電力需給逼迫を考えた。そのポイントは、欧州との比較においての三つである。第一にエネルギーセキュリティの重要性、第二にBGに対する供給義務マインドの更なる醸成、そして健全な市場構築に必要な情報公開の励行である。既に政府の審議会では様々な検証が進められているが、ここではDSR(需要側リソース)目線で、即応性のある対

第2回オークションに向けた容量市場の見直しについて(上) 2021年05月24日

戸田 直樹:U3イノベーションズ アドバイザー       東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 1.はじめに(改めて第1回オークション結果について) 第2回メインオークションに向けた容量市場の見直し議論がこのほどまとまった(経済産業省(2021))。2020年9月に行われた第1回メインオークションの中で指摘された課題を受けての見直しである。第1回メインオークションについては、約定価格が上限価格近くの14,137円/kWとなったことが耳目を集めたこともあり、実

第2回オークションに向けた容量市場の見直しについて(下)-併せて戦略的予備力、カーボンニュートラルの電力市場- 2021年05月24日

戸田 直樹:U3イノベーションズ アドバイザー       東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 (上)から続く (5)減価償却費の扱い 細かいところで、一点指摘する。とりまとめの中に『「容量市場における入札ガイドライン」では、電源を維持することで支払うコストに減価償却費が含まれるかどうかについて、明記されていないため、明確化すべきというオブザーバーからの意見があった。取り扱いを明確化するため、電源を維持するために支払うコストに減価償却費を含めないことを

限界費用玉出し、容量メカニズムで誘導を 2022年04月26日

戸田 直樹:U3イノベーションズ アドバイザー       東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 (電気新聞 2022年4月22日版 3面掲載記事を転載) 電力・ガス取引監視等委員会は21日の有識者会合で、大手電力による限界費用玉出しを適正取引ガイドラインに位置付ける方針をあらためて明示した。東京電力ホールディングス経営技術戦略研究所経営戦略調査室チーフエコノミストの戸田直樹氏は、限界費用玉出し自体は意義があると指摘する一方、それを実現する手法は規制ではなく、

失われたバッファーの回復が急務 2022年06月25日

公益事業学会 政策研究会会員 阪本周一 (電気新聞 2022年6月24日版 3面掲載記事を転載、補足のための追記あり) 電力需給逼迫は2020年末に顕在化して以降、修復の兆しがない。23年1、2月の東京エリアでは、周波数変換設備(FC)マージン開放、試運転電力などを加味してもマイナス予備率となっている。公益事業学会政策研究会会員の阪本周一氏は、電力システム改革の中で失われた「バッファー機能」の回復が急務だと訴える。  2020年末以降、電力需給逼迫が顕在化し、落ち着く兆し