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「優しい社会創りの支援者」〜一般社団法人NIMO ALCAMO代表 古市 邦人〜

京都の今を生きるU35世代の価値観を集めたメディアです。
次期「京都市基本計画(2021-2025)」を出発点に、これからの京都、これからの社会を考えます。

週末は大阪でカレー屋を営みながら、全国を移動しキャリアコンサルタントとして活動されている古市邦人さん。
今回は、古市さんが大事にされている価値観「#良い出会いを増やす」「#自分に出来る方法でお手伝い」「#個性に合わせた選択肢を創る」に迫ります。

やってみたい、に合わせた仕事創り

─── 普段されているお仕事や活動について教えてください。

過疎地域などを訪問して、その日だけの出張レストランをひらく「サーカスキッチン」というプロジェクトを行っています。僕自身がカレー屋として参加するのに加え、他にも料理人をコーディネートして、ランチを食べる場所や他者と関わる機会が限られてしまう地域に、新しい選択肢をお届けします。

観光以上移住未満の関係で関わる人を増やすことで選択肢不足を解決しつつ、飲食業界の働き方を柔軟にしていく取り組みです。

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─── 取り組みを始められたきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

地方へ行った時に「カレー屋です」と自己紹介をすると「この地域にカレー屋って無いんだよね」「今度カレー作ってよ」と言われることがよくありました。

確かに田舎に行けば行くほど専門店はありません。「喜んでくれる人がいるなら」という思いと、自分自身が多動な性格のため「カレー屋としてワーケーションをしてみたい」という思いから、「サーカスキッチン」の原型となる、スパイスカレーの出張出店を始めました。

ADDressという定額制住み放題サービスを活用して全国各地の拠点を転々と回るのですが、カレー屋がワーケーションするためには滞在先で働くための店舗を間借りしなくてはなりません。

運良く様々な出会いがあり、京都市内の元銭湯、兵庫県丹波篠山市の城下町、兵庫県豊岡市の元料亭など、最高のロケーションで温かい地域の人達との交流をしながらワーケーションを楽しんできました。

売上や利益のためだけに行う仕事とは違う感覚で、それぞれの地域での出会いを楽しむことができ、心と体が癒されるような時間を過ごしました。 

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※出店先のひとつ、京都市内の元銭湯のコワーケーションスペース九条湯

誰と出会うかで人生は変わる

─── 「出会い」は古市さんの人生にとって重要なキーワードですよね。

「人は良い出会い方をすると、良い関係性が築ける」という考え方を大事にしています。人と人が出会う時もそうですし、人と社会が出会う時もそうです。

学生時代にヒッチハイクをしていた経験がこの考え方につながっています。1度車に乗せてもらえると、乗せてもらえない寂しい気持ちが過去のものになります。乗せてくれた方々の優しい気持ちを知ったことで、僕にとってヒッチハイクは「人に無視される寂しいものではなくて、新たな出会いを生む楽しいもの」になりました。

新卒で入社した会社でも、良い出会いに支えられました。自分よりも人生経験を積んでいる方々から、「古市くんの経験を学生に話してあげてよ。」と期待をしてもらいました。退社する際にも、新たな挑戦を応援してくれる人ばかりでした。

経験が浅く、出来ない業務が多いにも関わらず愛情を注いでくれる方々に出会えたことで、自分の存在を認めてもらえていると思えました。

そのような体験から「人と出会うことで人生は変わる」という考えをベースにしたキャリア支援をしたいと思い、若者の「働く」をサポートするNPOへ入社することを決めました。

─── 「キャリア」は人によって捉え方が異なると思います。古市さんはどのようにお考えですか。

僕にとってキャリアの定義は「すべての人にとって自分の役割と、自分が生きている意味を感じられる」ことだと思っています。

NPOでは、「働くこと」に悩む若者の就労支援を行ってきたのですが、これまで「社会と悪い出会い方をしたために、悪い関係になってしまった人」の話をたくさん聞いてきました。悪い出会い方をすると、人は社会を怖いと思うようになったり、ときに憎んだりするようになります。

学生時代に訪れた東南アジアと比較すると、日本は遥かに豊かです。それなのに、日本では生きていることが辛いと感じている人が多いと思います。

たった一つでいいから良い出会いを経験すると、生きていることが楽しくなると僕は信じています。そんな思いを込めて、2020年11月に設立した法人の名前はニモアルカモと言います。1があるなら、2もあるかも。つまり、良い出会いが1度あったならきっと2度目もやってくる、という意味です。

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「出来ないこと」は「ダメなこと」ではない

─── 他者のために行動できるモチベーションは何でしょうか。

他者のために動いているつもりはあまりなくて、根本的には自分のために行動しているんだと思います。今のカレー屋のスタイルがある背景も自身の「出来ないこと」を出来るように工夫しているからです。

僕は興味がすぐに移り変わるため、根気よく一つの作業を行うことが苦手です。

キャリアカウンセリングの仕事をしているのですが、多動な僕は時間が経つと集中力が切れてしまいます。そんな自分に「なんて薄情な奴だ」と感じても、体がついていきません。

ただ、1つの行動を長く継続することは出来ないけど、2つのことを同時に行うことで,結果として長く継続して行動することが出来たんです。例えば僕は、カレーの仕込みの準備などの作業をしながら人と話す方が、会話だけに集中するよりもパフォーマンスが良くなるんです。これは多動な人間ならではの方法ですよね。以前は1つのことを続けられない自分に自信がなかったのですが、仕込みも進んで一石二鳥だとポジティブに考えるようにしています。

何時間も続けて話を聞くことは出来なくても、何か作業をしながら話を聞くことは出来ます。僕の出来る形に働き方を合わせているだけです。

─── ご自身が多動であることを「個性」として捉えられているんですね。

多動性は発達障害として捉えられることもありますが、多動だから劣っているということではないと思っています。カレーが好きな人がいれば嫌いな人もいる。1人の時間を持ちたい人もいれば、家族と過ごしたい人もいる。それらと同様の「個性」だと考えています。

1か所で働き続けることが苦手な僕にとって、様々な場所を訪れる働き方は非常に合っています。しかも、訪問先でたくさんの人に喜んでもらえる。

そのように考えられる様になったのも、存在を認めてくれる人や期待をしてくださる人に出会ったからです。そして、NPOでたくさんの方との対話から「人には個性がある」ことを強く感じました。個性豊かな人々を社会が定めた枠に無理やり当てはめようとするから、働くことや生きることが辛い人が出てきてしまうんだと思います。

「優しい」社会を創っていく

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───様々な個性に出会ってこられた古市さんが創っていきたい世界観を教えてください。

世の中に用意されている仕事に人を合わせるのではなく、人の個性に合わせて仕事の選択肢を増やしていける社会を作りたいです。

雇用されるためのハードルが高くて働けない人がいることは、社会の損失です。例えば飲食業界ではシフト勤務が当たり前ですが、鬱などで体調が日々変動してしまう人にとってはシフトに穴を空けてしまうことが不安の原因になります。

けれども、例えばUberEatsの配達ドライバーの仕事であれば、「今日は体調が良い」と思ったらアプリを立ち上げ仕事を始められます。体調が悪くなってきたら、アプリを閉じて仕事を終えることも出来ます。

「雇用されるかされないか」の0か100か、という選択ではなく今の自分が出来る分だけ働けて社会に活躍できる場がある。

そのような選択肢を増やすために、僕自身も「好きな時に好きな場所で働く」を体現しています。カレー屋の店舗を持ちながら、カレーを作り続けるのではなく「おでん」や「タコス」を出したり、移動販売車でイベントに出店したり。

今後は「多動で専門スキルを持つ人」と「専門サービスを求めている地域」を結びつけるプロジェクトを立ち上げ、自由な働き方を広げていきたいです。

インタビューを終えて

「自分のままでいてもいい。」心身共に不安定になりがちで「完璧でいなくては」と自分を縛っている私は思わず、インタビュー前に古市さんのnoteを拝見して涙が出ました。多動であっても、鬱であっても個性として捉え社会から取りこぼさないこと、自分が社会で存在意義を発揮する瞬間は「常に心身共に健康・万全でいなくてもいい」ことを気づかせてくれました。

古市さんの創り出される世界観から目が離せません。

今回集まったU35世代の価値観は下記の3つです。

#良い出会いを増やす
#自分に出来る方法でお手伝い
#個性に合わせた選択肢を創る


<古市邦人さんプロフィール>
1986年生まれ。国家資格キャリアコンサルタント。2010年立命館大学卒業後、株式会社公文教育研究会へ入社。教室コンサルティング業務を担当。その後2013年にNPO法人HELLOlifeへ入社。事務局長として、厚生労働省委託事業の「地域若者サポートステーション」の総括コーディネーターや、大阪府委託事業「OSAKAしごとフィールド」の運営責任者など、就労支援事業のディレクターを歴任。2020年11月に「一般社団法人NIMO ALCAMO」を設立。

<古市さん関連URL>
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取材・文:中村千波(株式会社リクルートキャリア)

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