私にとってはただの一日、お客さまにとっては一生の思い出。〜株式会社大西常商店 大西里枝〜
京都の今を生きるU35世代の価値観を集めたメディアです。
次期「京都市基本計画(2021-2025)」を出発点に、これからの京都、これからの社会を考えます。
京都で伝統的な京扇子の製造卸・小売業を営んでいる株式会社 大西常商店 4代若女将 大西里枝さん。お客さまの立場を想像したおもてなしへのこだわり。
今回は、大西さんが大事にされている価値観「お客さまに感謝を伝える地道な努力を欠かさない」「私にとってはただの一日、お客さまにとっては一生の思い出。」「軸はぶらさず、新しい挑戦をする」に迫ります。
─── 普段どういうお仕事や活動をされているのか、教えてください。
大西里枝(以下、大西):現在は、京都市下京区にある株式会社 大西常商店で京扇子の製造卸・小売業を行っています。名前の通り、家業としてやっています。
主なお客さまは、呉服店や寺社、棋士の先生などです。他にも、一般のお客さま向けに店舗での小売販売も行っています。近年では、竹の扇骨を使ったルームフレグランスなど、新商品の開発にも力を入れています。
店舗には、若い方から年配の方まで色んな方が来てくださります。新型コロナウイルス前までは海外の方もたくさん来てくださっていました。そうして様々な方を接客させていただく中で、お客さまに恵まれているなとよく実感します。
─── お客さまに恵まれているとは、どういうことですか?
大西:扇子をお買い求めくださる方は、扇子を大事にされる方が多いということです。
扇子の原材料は竹と紙です。なので耐久性には限界があるのですが、丁寧にお使いいただくと4~5年は美しく使って頂けます。
地紙が破れたり骨が折れたりしても捨てずに使い続けていただけるように、弊社では、製品の修理を承っております。
たとえば、「ここで買った扇子を大切に使っていたのに、自転車をこいでいたはずみで扇子を落としてしまい、扇子がバイクに轢かれてしまって......なんとか直してくださいませんか?」というお客さまもいらっしゃいました。
扇子を大切に使ってくださる方、「なんとか直してほしい!」と修理に持ってきてくださる方が多いのは大変嬉しいことです。
お客さまに感謝を伝える地道な努力を欠かさない
─── 素敵なエピソードですね。大西さんは、そんなお客さまと接する時、意識していることとかありますか?
大西:そうですね。
お店で接客をする時は、一回来ていただいた方のお顔とお名前は、必ず覚えるようにしています。
あと小売店に来るお客さまは、扇子を贈り物として、購入されるケースが多いんですね。
そのとき、私が領収書をお渡ししたり、お客様が名刺をくださったりする際は、必ず手書きのお礼状やメールをお送りするようにしています。
お客さまに手紙を書くと、毎日たくさんの方にお越しいただくので、感謝をお伝えすると同時に、頭の中を整理する時間にもなっています。一人ひとりのお客さまとのやりとりを思い出しながらお手紙を書くと、自然と記憶に残っていくんです。
なので、どんなに忙しくても、これだけは欠かさずやるようにしていますね!!
なんか、私キャバ嬢みたいですね (笑)
私にとってはただの一日、お客様にとっては一生の思い出。
─── いや、そりゃあ、そんなことをされてしまうとリピートしたくなりますよ!
大西:あと、私は毎日着物を着ていますが、実は着物がそこまで好きなわけではないんです。
─── え!それなのに、なぜ毎日着物を着るんですか?
大西:理由は、シンプルです。
私にとっては一日はただの一日です。だけど、京都に旅行に来た方にとっては、その日が忘れられない一日になるかもしれないからです。
私が着物を着ることで「少しでも、旅の思い出に花を添えられたらな」と思っています。
他にも、大西常商店を「京都らしい雰囲気を味わえる場所」として知ってもらえるように、毎日着物を着ている節もありますね。
軸はぶらさず、新しい挑戦をする
─── 他にも、 大西さんがお仕事や活動のなかで「大事にされていること」があれば教えてください。
大西:あります。
それは「軸はぶらさず、新しい挑戦をする」です。
大西常商店に入社してすぐに「今後、扇子の販売だけで経営を続けていくのは難しいだろうな」と判断し、様々な取り組みに着手しました。
まずはじめに「現代の生活に寄り添う工芸」をテーマに、扇子の素材や技術を活用した商品開発を行いました。そのほかにも、築百五十年の京町家をレンタルスペースとして、日本舞踊などのお稽古ごとや、企業さんの写真撮影にお貸しするようになりました。
クラウドファンディングなども活用しながら、それはもう、色々新しいことをしはじめました。いきなり他業界から帰ってきた跡取り娘の私が「色々新しいことにチャレンジしたい!」と息巻いていていたんです。
すると、古株の社員や社長から、こんな反応が返ってきました。
「新しい取り組みに挑戦することは素晴らしいけれど、この会社にはご先祖さんが積み重ねて来た歴史がある。それを鑑みて、自分のやろうとしていることが正しいかどうかを判断しなさい」と。
家業を継ぐことの重みを感じ、はっとしました。
それからは新しい事業や企画を考える時に、一度立ち止まって、大西常商店が大切にしたいものに沿っているかを確認するようになりました。ぶれない軸があれば、長く続けられる事業の柱を増やしていけると思っています。
背後にある文脈が汲み取りにくい現代
─── では、今の社会に対して違和感があるること、またそう感じるシーンがあれば教えてください。
大西:違和感と呼べるほどではないかもしれないですが、「窮屈な世の中だなあ」と感じることはよくあります。
インターネットが発達しSNSが普及したことで、人と簡単にコミュニケーションをとることができるようになりましたよね。一方で、断片的な情報・文言が広がりやすく、背後にある文脈をくみ取りにくくなったような気がしています。
こちらがどんなに工夫して意見を伝えても、結局、情報は「受け取る側の思考」に依存するので、SNS上での自身の発信には怖さを感じています。
なので、背後にある文脈までしっかり伝えたいことは、きちんと会って話すことが大事だなって思いますね。
京都の人にとって、誇れる魅力的な都市であってほしい
─── では「これからの京都」でシフトすることやシフトさせたいと思った出来事を合わせて教えてください。
大西:京都の外、特に首都圏や海外に向けて発信されているイメージは、「上澄みの京都」だと思います。ハイエンドな層に観光に来てもらうために、憧れの京都を演じているような気がしてなりません。
私たちも観光事業者に近い立ち位置ですが、観光事業と人々の暮らしのバランスは大切だなと感じています。
もちろん多くの方が、観光しに来てくださるからこそ、京都という街の歴史や文化が形成されてきたと思います。ですが、京都は観光客のためだけの街ではありません。
これからの京都は、もともと京都に住んでいる人や、これから京都に越してくる人たちが誇れる、魅力的な街であってほしいと思っていますね。
守るべき文化は丁寧に継承し、新たな取り組みで歴史をつくる
─── 最後に、このメディアは共創*を目的としています。このメディアの読者、U35-KYOTOメンバーと大西さんが共創したいことを教えてください。(共創*=相手の横に並び同じ未来を見て、共に創ることとU35-KYOTOは定義します)
大西:京都が自慢する「京都の歴史」は、私たちよりずっと前に生きた人たちが汗水を流して、つくってきたものです。
今、私たちはそれを利活用しているだけにすぎません。
私たちが過去の遺産を消費するだけの存在になってしまえば、次の世代には何も残りません。今の京都に生きる私たちは、次の歴史をつくるために頑張らないといけないと思います。
京都には連綿と受け継がれてきた「文化と歴史」があります。なので、守るべき文化は丁寧に継承すべきです。
加えて、わたしたち市民や事業者の新たな取り組みが、次の歴史をつくっていくべきだと思っています。
500年先も、1000年先も、ずっと「京都」が世界に誇れる都市であるように、今、この瞬間から、U35-KYOTOの皆さんと共に京都の新しい歴史をつくっていきたいです。
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インタビューを終えて
大西さんのお客さまを想う姿勢からは、たくさん学ばせていただくことができました。お商売というのは「どれだけ相手を想うことができるか」に尽きるのかなと感じました。今日からできることとして、僕も、目の前の人を想うことを意識して行動したいと思います。
今回集まった新しい価値観は3つでした。
「#お客さまに感謝を伝える地道な努力を欠かさない」
「#私にとってはただの一日、お客さまにとっては一生の思い出。」
「#軸はぶらさず、新しい挑戦をする」
<大西里枝さんのプロフィール>
1990年生まれ。京扇子製造卸 大西常商店の4代目若女将。
立命館大学を卒業後、NTT西日本での勤務を経て、家業である株式会社大西常商店に入社。扇骨の加工技術を活かした新商品の開発し、2017年度京ものユースコンペティショングランプリ、文化ベンチャーコンペティション京都府知事優秀賞を受賞。
<大西里枝さん関連UPL>
株式会社大西常商店 HP
株式会社大西常商店 Facebook
六根Life&Craft
百花図案室
(取材:中馬一登(株式会社MIYACO)、長村伊織 / 編集:長村伊織)
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