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未来も人も豊かになる、お寺のアップデート ~桂春院 副住職 安楽島康正~

京都の今を生きるU35世代の価値観を集めたメディアです。
次期「京都市基本計画(2021-2025)」を出発点に、これからの京都、これからの社会を考えます。

国指定名勝の枯山水庭園「桂春院庭園」でも有名な、妙心寺の塔頭寺院「桂春院(けいしゅんいん)」副住職の安楽島康正(あらしま やすまさ)さん。
お寺のこれからのあり方を考えている安楽島さんが大切にされている価値観「# 鉄の心と感謝の気持ち」「# 便利に頼りすぎない」「# 自分の気持ち次第の強さ」について迫ります。


■お寺の持つポテンシャル

───普段どういうお仕事や活動をされているのか、教えてください。
安楽島康正(以下、安楽島):副住職としてお寺の運営をする一方で、修学旅行生の座禅修行など、若い世代にお寺の意味や価値を広げる活動をしています。
若い方は、あまりお寺を利用しなくなっていますが、お寺は堅い場じゃないということを伝えたいと思っています。
自然が溢れる空間で、静かで、そして心を落ち着かせ自分と向き合える場なので、心を癒すこともできるんです。

───本当にとても気持ちのいい場所ですね。

安楽島:ありがとうございます。お寺って古いイメージもあると思いますが、逆に考えると昔から今に至るまでの歴史があり、その町の人にとって必要であったということでもあると思います。

だからこそ、私は未来に向けてお寺をどのようにつなげていくか、人のためを想いながら考えています。

お庭を眺めながらご飯を食べるといつもより美味しく感じますし、昔のように寺子屋として学ぶ場所としても活用できないかなとか。また、京都という土地の魅力として、京都という土地の魅力を活かした取組をしてみたいとも考えています。

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■良し悪しに縛られない、相手のことを想うからこそ生まれる言葉

───安楽島さんが大切にされていることを教えてください。

安楽島:友達を大切にしていますね。友達が喜ぶ姿を見るのが好きなんです。
きっかけはおばあちゃんの教えで、「感謝の気持ちを忘れずに」と言われていたことです。一人ひとりを大切に接しなさい。良い人も悪い人もいるけれど、その人が良くなるようにしなさいと。
  

───悪い人にも良くなるようにしなさいというのは、何か意味がありそうですね。

安楽島:自分の悪いところは、自分ではなかなか気づかないと思うんです。
例えば、偉そうにものを言って人から距離を置かれる人は「よし、偉そうに言ってやろう!」と思って話しているわけではないですよね。無意識にそういう話し方になっていると思うんです。

なので私は、「そういう言い方やから、人との距離があくんやで」と、自分で気づかないことを伝えるんです。最終的に、直そうと思う意識がないと非は直せないので、自分がどこ悪かったかと聞かれた時に、伝えるようにしています。
こうして悪いところに気づけると、みんなが良い方向に向かっていきますよね。


───安楽島さんの感謝の心の姿勢が表れているように思います。

安楽島:心といえば、お前は「鉄の心」を持っているなと修行中に言われたことがあります。私が選んだ修行はとても厳しくて、多くの方が途中で違う修行に切り替えるほどなんですね。なので、理不尽だと思えるようなこともあったのですが、なにくそ精神、今に見ておれというぐらいの気持ちで修行を積んで、気づけば鉄の心と言われるまで丈夫になりました(笑)。

面白いのが、修行が終わると、今に見ておれと思っていた気持ちが消えるんです。修行を終えると1人の和尚として周りが認めてくださり、互いに対等になります。
すると、強い心もあってか、互いを認め合うだけで、相手へのネガティブな気持ちがなくなるんです。気持ちがプラスにはたらくんですね。

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■便利なことで生まれる副作用

───今の社会に対して「違和感」を覚えることがあれば教えてください。

安楽島:あまりこれだというものはないのですが、便利過ぎる社会になっていることですかね。
ステイホーム期間に周りを見渡した時、便利なもので溢れているなと思ったんです。便利ということは、頭を使わなくていいことだとも思っていて、工夫や知恵が広がらないんです。
本当は人ができることなのに機械に頼ってしまう。すると、頭を使って考えたり行動する、本来あったはずの機会がなくなってしまう。便利なものに頼り過ぎると、何も考えられなくなるんじゃないかと心配です。

───思考や行動をショートカットするから便利なんですね。

安楽島:少し前までパソコンのない職場が当たり前で、つい最近までみんなスマホを持っていなかった。それが今ではあることが当たり前になっていますよね。そしてスマホがない生活がイメージできない。このまま頼りすぎてしまうと、便利なことに頭がマヒしちゃうんじゃないかと思うんです。
だからこそ、自分の頭で考えたり、行動するということが大切だと思います。


───便利から距離を置くという意味で、座禅が思い浮かびました。

安楽島:そうかもしれないですね。
よく、「座禅をしたら落ち着いたり、集中できるんでしょ」と言われるんですが、
それは自分の気持ち次第ですよと伝えるんです。
私が座禅体験を開く時は、座禅のやり方を教えるだけなんです。というのも、実際に座禅をするのはご本人なので、こうしなさい、ああしなさいということではなく、自分がどのようにしたいかという気持ちがないと、落ち着くものも落ち着かないんです。
なので、お庭を見て癒やされるのも、座禅からリフレッシュするのも、そう願うかどうか、自分の気持ち次第なんです。

■豊さを取り戻す、お寺×◯◯◯への挑戦

───自分を見つめ直すお寺の存在は大きいですね。

安楽島:そうだと思います。だからこそ、お寺を色々な方に使ってほしいですね。

先日、お寺でオペラの演奏会をしたんですよ。音楽を自然の中で聴くと心が落ち着いて癒されたんです。お寺の活用の仕方は色々あると、可能性を感じる出来事でした。
色々な方に使って欲しいと思うからこそ、色々な関わり方をつくりたいです。
お寺のお庭を人の癒しの空間として使って欲しいので、伝統芸能や工芸の方とコラボもしてみたいですね。お声がけをお待ちしています。

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<インタビューを終えて>
インタビューの始まりから終わりまで、どんな質問にも終始笑顔の安楽島さん。
どんなことにも耐える鉄の心と、相手を想うやさしい気持ちが重なると自然と朗らかでいられるのかもしれない。そう思えるほど、安楽島さんから滲み出る「いい人」のオーラが素敵でした。そんな安楽島さんだからこそ、お寺の枠組みを超えた新たなコラボレーションが生まれ、人々の豊な暮らしにつながると強く感じます。


今回集まった新しい価値観は3つでした。
「# 鉄の心と感謝の気持ち」
「# 便利に頼りすぎない」
「# 自分の気持ち次第の強さ」


<安島康正さんプロフィール>
1988年京都市生まれ。
2010年花園大学卒業。
大徳寺僧堂にて3年の修行生活を送った後、
2016年から妙心寺の塔頭寺院である「桂春院」副住職に着任。
修学旅行生に禅を伝える活動など、
お寺の新しいカタチを試行錯誤しながら、
時代に合わせた若い人にも身近なお寺のあり方を探求中。

<安楽島康正さん 関連URL>
桂春院 | 京都の観光スポット | 京都観光情報 KYOTOdesign

取材・文:仲田匡志(株式会社MIYACO / フリーランス)
写真:其田 有輝也

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