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アートや文化が教えてくれた、言語化できないものも大切にすること ~社会福祉法人香東園 石川 紘嗣~

京都の今を生きるU35世代の価値観を集めたメディアです。
次期「京都市基本計画(2021-2025)」を出発点に、これからの京都、これからの社会を考えます。

地域に根ざし、自立した生活を支援する「社会福祉法人香東園」で経営管理や経営企画など様々な業務に携わる石川紘嗣(いしかわ ひろつぐ)さん。

講演活動や音楽フェスの主催の他、介護を題材にした映画の制作に携わるなど幅広く活躍。2020年の新型コロナウィルスのパンデミックをきっかけに、誰も取り残さないヨガ「ユニヨガ」を通して、人々が心身ともに健康になり、優しく繋がっていくきっかけを提供する場所をつくられています。


そんな石川さんが大切にされている価値観「#多様性の理解のための共同体験」「#掛け合わせから生まれる新しい価値」「#自分の頭で考えること」
について迫ります。


■言語化できない「間」の感覚、言葉にできないものに価値を感じるのが日本人

───ご自身のお仕事や活動について教えてください

石川紘嗣(以下、石川):社会福祉法人「香東園」に所属し、法人本部で経営管理や経営企画などの仕事に携わっています。以前は映画の制作や音楽フェス、戦略特区のアドバイザーや講演活動を行っていました。昨年から、青年会議所活動で生み出した誰も取り残さないヨガ「ユニヨガ」を広める活動に力を入れていますね。

取り組んでいることは色々あるのですが、私の場合、点と点がきれいにつながっているわけではないので、正直何をしている人か説明しにくいんですよね。記事にするときや、ある程度大勢に見てもらうということを目的にしているときは、きちんと言語化しなければいけないので、どう説明しようかと難しいところです。

───言語化はやはり大切なのでしょうか?

石川:広告やマーケティングなど、より多くの人に物事を伝えなければならないときは、言語化は大切だと思います。一方で、言葉にできないものを大事にすることも生きていく中で大切な考え方だと感じていますね。特に日本人は、白黒付けがたい、どっちつかずの曖昧な言語化できないものに価値を感じている人種だと考えています。

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例えば、「面影」という言葉を説明してくださいと言われたら、説明に困りませんか? 面影は、「あるものにどこか似ているな」と思い起こす際に使いますが、特定の人やものをハッキリと指しているわけではなく、ぼやっとした概念みたいなものですよね。どこか懐かしさやノスタルジックな感情を刺激される言葉のような感じで、これも曖昧な表現です。

紅葉も同じで、枯れるギリギリのところに日本人は価値を感じます。このような言語化できない概念が日本には他にもたくさんあって、中間やうつろい、右か左かわからないところに美しさを見出すんです。

■共同体験が多様性を理解するきっかけになる

───石川さんがそのような日本の文化に興味を持ったきっかけを教えてください

石川:最初にアートに興味を持ったきっかけは、大学生の時に読んだダニエル・ピンクの『ハイコンセプト』*という本です。そこに書かれていたのは、「今は第四の時代がきている。人類は、第一に農業革命、第二に産業革命、第三に情報革命、そして第四はコンセプトの時代になる。コンセプトの時代に必要なのは、左脳的なロジカル的なところだけでなく、アートなどから醸成される右脳的な力だ」というような内容でした。この本に出会ったのがきっかけで、アートに触れ始めたんです。
*『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』 
  著:ダニエル・ピンク  出版:三笠書房 

大学では開発経済学を学んでいたので、自分の身近にアートに詳しい人はあまりいませんでした。もしかしたら、週末通っているクラブハウスになら、アートに詳しい人がいるんじゃないかと考え、少しずつ知り合いを増やしていくことにしたんです。実際に、アーティストの友人が増えると、もっとアートを知りたいと思うようになりましたね。

そうして、3か月ごとに100人規模のクラブイベントを自分で開催するようになりました。これがはじめてのマネジメントの経験だったと思います。

他にも、アートに触れるためにヨーロッパを旅したこともありますが、京都に来てから、日本文化に惹かれていきましたね。

家に床の間があったり、花を生けたりと幼い頃から日本文化に触れていたのが影響しているかもしれません。また、祖父母とも一緒に住んでいたので、世代を超えての価値観を受け入れられる環境であったのも、素養や多様性を育むきっかけになったと思います。

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───多様性を尊重していく中で大切なことを教えてください

石川:多様性が大事という、学術的な理解はだれでもできると思います。「お年寄りを大切にしよう、障がい者を大事にしよう」といって、「しません」なんていう人はいませんよね。それを言われたから大事にするのではなく、自然にできる社会にすることが次のステップだと思っていて、そこに必要なのは共同体験だと考えています。

共同体験というのは、自分と個性が違う人と同じ空間で、同じ体験をすること。これを社会システムの中で取り入れる工夫をすることが大事だと思っています。
例えば、駅構内で車いすの方を駅員が補助するサービスがありますが、乗客が補助することで、そこに共同体験は生まれるんです。実際に自分自身が体験することや身近な人になることで、どういう時に不便で、どういう時に助けて欲しいのか気づくことができます。

ダイバーシティー&インクルージョンという言葉がありますが、これは個人の多様性(=ダイバーシティ)を認め、自分を含めて包摂する(=インクルージョン)という意味です。ここで大事なのはその順番だと思うんです。インクルージョン&ダイバーシティーの順のように、まず受け入れる、認めることで多様性につながっていくと私は考えています。

■様々なものの掛け合わせで新しいアイデアが生まれる

───石川さんが大事にされていることはどんなことですか?

石川:自分の頭で考えることを意識しています。別にオリジナルを大事にしているわけではないのですが、「これってどうなんだろう?」という問いかけを自分自身にするようにしていますね。


───自分で考えることが大事だと思うようになったきっかけはなんですか?

石川:人の話を聞いていても、どこかで聞いたものをそのまま話す人と、自分で考えて自分の言葉で話している人の違いって結構わかるんです。

以前、自分で考えていない発言をする人の言葉が伝わってこないと感じたことがあったので、自分自身はそうならないために自分で考えて発言しているというのはありますね。その考えるきっかけは、いつも本からもらっています。読んでいる途中に、「自分はどうなんだろう、これはあの人に当てはまるかな」などと、問いをもらって解を考え続けることが日常的な習慣になっているかなと思います。

でも、この自分の頭で考えて発言するというのは、度胸がいるんです。身近な家族や友人に自分の考えを言うのはできると思うのですが、著名人や大勢の人の前で自分の意見を言うのはそう簡単にできることではありませんよね。

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───今後やっていきたいことはありますか?

石川:色々なものを掛け合わせることで価値を生み出していきたいですね。私にとって京都は、掛け合わせの種が多い土地だなと思ってます。この掛け合わせもセンスが大事で、違うもの同士を合わせると面白くなるんです。

例えば、Z世代(=1990年代半ばから2000年代の初めに生まれた若年層)が出演するテレビ番組が最近増えてますけど、一緒に40代、50代のタレントや芸人がいるから面白くなりますよね。京都の場合で考えてみると、京都のまちの文化に軸をおいて、歴史を徹底的に調べた上で、そこに色んなものを掛け合わせていくんです。そこを自分や他人のフィルターを通して考えぬくことでクリエイティブなアイデアが出てくるだろうと思っています。


───やはりそこには「考える力」が必要なんですね

石川:よく課題解決能力が大事と言われていますが、一番ポイントなのは、課題発見能力だと思っています。解決能力とはいっても、今の時代、ネットで探せば大半の解決方法は簡単に出てきます。一方で、課題発見の能力を磨くには、足を使って考える力が必要。違う世代の交流の場所を作ることで、課題やヒントを見つけていき、能力を磨いていくことがポイントだと思いますね。

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<インタビューを終えて>
「自分の頭で考えることが大切」と要所要所におっしゃっていた石川さん。言語化が大事だと言われる中で、言語化ができないものを大切にする日本人の文化があることを教えていただき、今の若い世代にも大事なことだなと思いました。また、SDGsや多様性という言葉がトレンドで飛び交っていますが、そこに「共同体験」というなんとなくわかってはいるけど言葉で表現できなかった概念を言語化されているのを見て、強く共感を覚えました。

話を聞いているだけでインタビューしている方までワクワクさせてくれる石川さんの巻き込む力を感じ、言葉にできない臨場感を終始感じていました。

今回集まった新しい価値観は3つでした。

「#多様性の理解のための共同体験」
「#掛け合わせから生まれる新しい価値」
「#自分の頭で考えること」


<石川紘嗣さんのプロフィール>
社会福祉法人香東園の法人本部で経営管理や経営企画を担当。大学時代に出会った本の影響を受け、アートや日本文化に興味を持つ。介護を題材にした映画「つむぐもの」(2016)ではアソシエイトプロデューサーを務めた。現在は、ダイバーシティ&インクルージョン社会実現のため、誰も取り残さないヨガであるユニバーサルデザインヨガ(ユニヨガ)の普及に注力している。


<石川紘嗣さん関連URL>
社会福祉法人香東園

ユニバーサルデザインヨガ「ユニヨガ」

つむぐもの

↑石川さんがアソシエイトプロデューサーとして参加されています

取材・文:ワカモノラボ ライター 大谷 将太郎 
編集:ワカモノラボ 有馬 華香
写真:其田 有輝也


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