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コオロギを歴史と文化に紐付けることで未来に残る価値の創造へ ~株式会社BugMo 松居佑典~

京都の今を生きるU35世代の価値観を集めたメディアです。
次期「京都市基本計画(2021-2025)」を出発点に、これからの京都、これからの社会を考えます。

地元京都で、昆虫食産業のパイオニアとして奮闘されている株式会社BugMo共同代表の松居佑典(まつい ゆうすけ)さん。

京都の歴史や伝統と紐づけながら、コオロギを1つの「食」の選択肢として、数百年先にも残したいと話してくださりました。今回は、松居さんが大切にされている価値観「#正解はいくつもあるかもしれない」「#想いがつながる強さ」「#歴史と文化に紐付けることで生まれる価値」について迫ります。


■挫折して気づいた、食の大切さ

───普段どういうお仕事や活動をされているのか、教えてください

松居佑典(以下、松居):私たちBugMoは誰もが食を誰かに依存せず、自分自身で生産できる世界を作ることを目指し、食用コオロギの自動養殖システム開発と、コオロギを使った食品の研究・開発、販売をしています。

コオロギは場所や技術に捉われず、誰でも簡単に育てることができます。さらに、良質なたんぱく質と大切な微量栄養素(微量ながらも人の発達や代謝機能を適切に維持するために必要な栄養素であるビタミン、ミネラルを意味する)を一度に摂れる、栄養価が高い食材なんです。この2点が決め手となり、コオロギを取り扱うことにしました。

また、牛や豚の畜産は、世界中で森林破壊の原因になっています。飼料の栽培や放牧地の確保のために、森林伐採が行われるからです。一方でコオロギの養殖は、必要な飼料や場所が少なくて済むことから、森林を伐採する必要がなく環境に良いんです。

そうしたことから、私たちは昆虫食をしっかりと地に足ついた産業として成り立たせることで、先進国も途上国もお互いに頼らずとも食を安定して供給できる世界を実現していきたいです。また、貧困問題や環境問題などといった複数の社会課題の解決にも取り組んでいけたらと考えています。

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───そもそもどうして「食」に興味を持ち始めたのでしょうか?

松居:私は元々弁護士を目指すために法学部で勉強をしていたのですが、体調を崩し1年間休学をせざるを得なくなりました。

サークルの代表やゼミの代表も務めるなど活動的であったため、体調を崩し大学に通うことすらできなくなったときは、一気に社会の底辺にまで落ちたような気分でした。同期の就職報告をSNSで見るたびに、「どうして自分だけが社会からはみ出してしまったのだろう」と劣等感を抱いていたこともあったぐらいです。

ですがその時期に、自分の体が健康でないと人の役に立つことができないと実感し、自分の体をつくっている食と改めて向き合うこととなりました。

実際に食を通して体が良くなっていき、すっきりしていく感覚があったことから大学をドロップアウトし、海外の大学へ移り農業支援や環境科学を学び始めたんです。

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■自分たちの掲げたゴールに対して、集まってくれた仲間がいる

───BugMoを始められるきっかけについて教えてください

松居:海外の大学を卒業したあと一度は電機メーカーへ就職したものの、やはり農業や食への興味は変わらなかったこと。加えて、就職先も自分のやりたいことや働く環境が合うところを見つけられなかったことから、もう一度食に向き合うため、リサーチも兼ねて東南アジアへ行きました。そこで、昆虫食の可能性や現地の課題を目の当たりにしたんです。

現地の課題とは、日本に牛の飼料を輸出するために、森林がどんどん伐採されていることでした。自分たちが普段当たり前のように食べているものの背景には、異国の地にいる人の住む場所が奪われている事実があることを知り、ショックを受けました。それと同時に、この現状をなんとかしたいと思うようにもなったんです。

そういったことから、自分で解決していくしかないと覚悟を決めてBugMoを始めることになりました。


───実際に始めてみてどうでしたか?

松居:応援してくださる方々がとても多く、感謝の気持ちでいっぱいなのと同時に、早く恩を返したいという想いがあります。

「誰もが等しく、美味しく栄養のある食を作れ、食べられる世界を。誰もが自分の体も、心も、人生も満たすことができる世界を。」という自分の掲げたゴールに対し、共感してついてきてくれる人たちや応援してくれる方々がいる。それだけで正直、自分の人生のゴールへの道のりは半分達成できていると感じています。あとは、その人達とどうしたらゴールまでたどり着けるかを考え、走るだけです。

現在はコオロギを使用したプロテインバーや出汁を販売していますが、今まさに注目を集めている昆虫食市場のパイオニアとして、まずはしっかりと地に足をつけ、市場を獲得していきたいです。

また、投資を受けているベンチャーでもあるので、今はSNSなどでかっこいいことを言う前に自分の事業と向き合いカタチにし、結果を出すことに集中しています。

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■正解はいくつもあるからこそ、まっすぐに自分の道を突き進む

───現在、松居さんが社会に対して違和感があることはありますか?

松居:物事には各々の理屈や背景があると思っているのであまり違和感はないです。

東南アジアで森林伐採を見たときは確かにショックを受けました。ですが、日本人が牛肉を食べるためには東南アジアから飼料を仕入れる必要があり、現地の人は土地を飼料用の土地として引き渡すことでお金を稼いでいます。そこには各々の生活を成り立たせるための理屈や背景、正義があるとも思います。なので、森林伐採の現実を違和感という言葉で表現することはしっくりこないんです。

なにが正解かはみんなわからないし、私の考えが絶対合っているとも思っていないです。そういったそれぞれの正義を理解しながらも、自分が信じることに対して進んでいきたいですね。

また、自分と他人のことは別ものだと切り離して考えるバランスが大事だと思っていて、常に人は人、自分は自分だと思っています。

私自身、他人からポジショントークで考えを否定されたらいやなので、いろんな考えがあっていいなと思うようにしていますね。

いくつも答えや選択肢があってもいいと思えるようになったのは、自分が一度体調を崩し大学を休学するといったマイノリティになる経験をしたことからだと思います。



───今後のビジョンなどがあれば教えてください

松居:コオロギを新規食材という枠だけで捉えるのではなく、しっかりと歴史と紐づけて、1つの食として提供していきたいという想いがあります。昆虫食は話題性もあるのですが、一時的なトレンドとしてではなく、日本人の文化や感性に合ったかたちで200年、300年と残っていくものをつくりたいと思っています。

例えば、京都には出汁のような、長く受け継がれている歴史や伝統があり、そういった文化にしっかりと馴染ませることで、新しい価値を生み出し選択肢の1つとしてコオロギを確立させていけるのではないかと考えます。

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<インタビューを終えて>
今回松居さんにお話しをお伺いし、大学中退や東南アジアでの経験などから松居さんが自分自身と丁寧に向き合いながら、生き方を選択されてきたことが伝わってきました。いろんな経験を経た松居さんにしかできないことや言えないことが今回のインタビューに詰まっていると感じます。

私も、正解はいくつもあるからこそ、他人をジャッジせず自分の信じる道をしっかりと地に足をつけながら突き進んでいきたいです。

今回集まった新しい価値観は3つでした。

「#正解はいくつもあるかもしれない」
「#想いがつながる強さ」
「#歴史と文化に紐付けることで生まれる価値」

<松居佑典さんのプロフィール>
株式会社BugMo 代表取締役 CEO
日本の大学で法律、海外の大学で農業教育を学んだ後、電機メーカーに就職。その後農業ベンチャーを経て、2018年に株式会社BugMoを共同創業。

<松居佑典さん関連URL>
株式会社BugMo

取材・執筆:ワカモノラボ PRライター Mina Nagashima
編集:ワカモノラボ PRライター 有馬華香
写真:其田有輝也


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