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一人じゃなくてみんなで勝ちにいくことが幸せへの近道 ~株式会社食一 田中 淳士~

京都の今を生きるU35世代の価値観を集めたメディアです。
次期「京都市基本計画(2021-2025)」を出発点に、これからの京都、これからの社会を考えます。

海から離れた京都市内に本社を置きながら、北海道から鹿児島まで約100か所以上もの漁港と取引をされている、産地直送の魚屋「食一」を経営する田中淳士(たなか あつし)さん。

今回は、「日本人が魚を食べ続けられる社会を守っていきたい!」と語る田中さんが大切にされている価値観「 #素直に行動にうつす 」「 #楽しいをカタチに 」「 #一人勝ちではなくみんなで勝つ 」について迫ります。

値段がなかったからこそ価値になった珍魚との出会い

───普段どういうお仕事や活動をされているのか、教えてください

田中淳士(以下、田中):食一では主に、都会に出回らず漁師だけが知っている珍しくてうまい地魚を「海一流」という名前でブランド認定し、漁港からの産地直送で小売店や飲食店に卸す事業を行っています。
例えば「ミシマオコゼ」や「ハチビキ」「エチオピア」などといった珍しい魚...いわゆる珍魚を、漁港で直接漁師さんと取引を行っています。

地域によって好まれる魚や食べられている魚というのは異なっているので、日本国内でも魚の食文化というのは様々なんです。みなさんのところに届いている魚はその地域に好まれる魚が漁港から市場(京都では京都市中央市場であったり、東京であれば豊洲市場など)に集まり、卸売業者に買い取られ飲食店やスーパーに並べられています。そのため世に出回っていない魚というのがたくさんあるんです。

───どうしてこのような変わった魚を取り扱うようになったのでしょうか?

田中:学生時代に車で寝泊りしながら漁港を回っていたことがあり、その際に出会った魚が「ミシマオコゼ」という珍魚でした。こういった珍魚はおいしく食べられるにも関わらず漁獲量が少なく、値段にならず、獲れた漁港の近くだけで食されていたり、廃棄されたりしていることが多いことを知りました。
「こんなに美味しい魚がみんなに知られていないのはもったいない!」と、いつもお世話になっていた飲食店にミシマオコゼを持って行ったところ、需要があることがわかったんです。

こういった珍魚のおかげで、そのお店はまわりと差別化ができるだけでなく、今まで値段にならなかった珍魚を売ることができたり、お客様にも珍しい魚を楽しんでいただけたりするようになりました。このように「飲食店」「産地」「お客様」、みんなにとってプラスになると考え、珍魚を扱うようになりました。

それから全国の漁港を自らの足で回り、漁港の方々と信頼関係を築いていきながら全国の珍魚と飲食店を繋ぐということを始めました。

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ぶつかったらすぐに行動にうつしてきたことで現在の事業へとつながった

───そもそもどうして魚屋をスタートすることになったのでしょうか?

田中:実家が父で5代目になる魚屋であったため幼いころから僕も自然と魚屋になると思っていました。勉強をしていく中で、年々漁獲量が減少し輸入に頼らなければいけない現状や漁師という職業の後継者が不足していることがわかり、このままでは大好きな魚を食べ続けることができなくなってしまうと思いました。

そこで学生時代にビジネスコンテストに出場し、今の事業の原型となるプランを発表してみたところ、優勝。それを機に大学を休学、食一を起業することにしたんです。

───はじめから現在のようなビジネスモデルをつくることができていたのでしょうか?

田中:はじめはみなさんが知っているような魚を取り扱った産地直送の魚屋さんとして事業をスタートしました。ですが、取引先の飲食店の方からは「産地直送で鮮度がいいのはわかるが、市場と価格を比較すると市場の方がいい」と言われてしまい壁にぶち当たりました。

そんな中、周りの方に相談をしたところ「一度現場を回ったらどうか」とアドバイスを受けました。翌月には京都を飛び出し、自分が取引していた以外の漁港を回りはじめたんです。

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元々、実家が魚屋であったため漁港には顔を出す機会があり、僕自身知らない魚はないと思っていたのですが、実際に現場を回るとそこには自分の知らない魚ばかりでとてもテンションが上がったのを覚えています。

この体験がこれまで自分が持っていた魚や水産業に対する見方や意識を変え、現在の食一への出発点となり、自分が感じた興奮や嬉しさを他の人にも伝えるにはどうしたらいいのかと考えるようになりました。


お客様が途切れないコツはみんなにとって心地良い選択をとること

───田中さんが働くうえで大切にしていることはなんでしょうか?

田中:「楽しんで仕事をする」ということが大前提としてあります。
まず、楽しくないと続けることができない。これは幼いころから大好きな魚屋の仕事も遊びも全力でしていた父の背中を見てきたことがいまの自分の価値観をつくっていると思います。

ですがもちろん対価をもらっている以上、楽しいだけではダメだとも思っていて。立ち上げ当初から大切にしている「食を通じて 社会を愉快に」という経営理念のもと行動しています。

食一だけが一人勝ちをするのではなく、自社と関わってくださる漁港の方々、飲食店の方々など周りのことも考え全員にとっていい仕事をすることを心掛けています。そのために、飲食店のニーズをしっかりと把握したり、漁港に何度も足を運び関係を築いていくなど、地道に活動しながら信頼関係を大切にしていますね。

長く経営していくためには、自分たちも楽しみながらも、どこにもしわ寄せがいかないようにバランスを取り、いい仕事をし続けることが大切だと考えます。

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これといった正解がないからこそ挑戦し続ける

───これから時代が変わっていく中で今後のビジョンなどがあれば教えてください

田中:海の生態系を守りながら、漁師さんの収入源も増やし、魚を食べるお客様もより楽しめるといったハッピーが循環する仕組みを漁業でつくっていきたいです。

多くの漁師さんにとって、主な収入源は魚を獲って売上にすること。だから、天気が悪い日でも命の危険を伴いながら漁に出なければとなることも。
また、売り上げを増やすために、魚を獲り過ぎてしまうと生態系を傷つけてしまうことにもなるので、バランスが大事なんです。

なので、魚を獲って売上にするといった選択肢だけではなく、自然や環境にあまり負荷をかけずに漁師さんの生活を担保できるようにするために、漁港や船の使い方を工夫しようと考えています。

ですが、もちろん生活がかかっている漁師の方々に自分たちも試したことがないことをやっていただくのは説得力がないと思うので、まずは食一自らが船を持ち、アイデアを試していくことから始めようと計画しています。

例えば、漁船で婚活をしたり、無人島で漁師さんとBBQをしたり、漁港内でボートレースをやるなど、考えるだけでワクワクしています!

実際に自分たちも消費者だけでなく、生産者の立場も経験することで、漁業の問題解決策を一緒に考えていけるのではないかと思っています。

───今後も魚を食べ続けられる社会にしていくために、わたしたちはなにができるとお考えでしょうか?

田中:自分なりに一人ひとりが考え行動していくことではないでしょうか。正解がないからこそみんなそれぞれで挑戦し、だれかの挑戦が成果をあげることで、結果として日本人がおいしく魚を食べ続けられる社会を守っていけたらいいと思うんです。

もし僕たちのやっていることがうまくいかなかったとしても、また別のことを考え挑戦していったらいい。それぞれが試していきながらみんなで勝ちにいきたいですよね。

仕事も遊びも全力でやるからアイデアが生まれます。そんなアイデアたちをカタチにしていきながら、食を通じて社会を愉快にしていきたいと思います!

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<インタビューを終えて>
取材をさせていただきながら田中さんが本当に魚が大好きで楽しみながら仕事をされていることが伝わってきました。「困ったら誰かがいつもなんとかしてくれるんです」と笑いながら話す田中さんでしたが、関わる人すべての人の幸せ、そして魚を食べ続けられる社会を守りたいと情熱を持って活動されている姿がいろんな人の心を突き動かしてきたのではないかと思いました。

私自身なんだかいろいろ周りを気にしたり、これは違うかなと正解をどうしても見つけたくなりますが、心から信じる道を試してみる感覚で突き進んでみるのもいいのかなと取材後、心が軽くなりました。そんな田中さんが見つけた珍魚たちをみなさんも食してみてはいかがでしょうか。


今回集まった新しい価値観は3つでした。

「#素直に行動にうつす」
「#楽しいをカタチに」
「#一人勝ちではなくみんなで勝つ」


<田中 淳士さんのプロフィール>
株式会社食一 代表。 アジ・サバ水揚げ日本一の市場、長崎県松浦で120年以上続く仲買業を営む実家にて、小さいころから地元の美味しい魚を食べて育つ。大学3回生の時、第4回Doshisha New Island Contest にて優勝、翌年の一年間を休学し、在学中に「食一」を創業。産地直送の海産物卸として営業を開始し、より現場を知るために九州・四国の漁港をレンタカーで寝泊りしながらひたすら行脚。そこでの情報・経験を通して、2年目に、産地に眠る旨い地魚ブランド「海一流」を立ち上げる。現在では全国の100数十箇所の漁港と取引を行い、飲食店などに産地直送で旨い地魚を卸している。

<田中淳士さん関連URL>
株式会社食一

取材・文:ワカモノラボ PRライター Mina Nagashima 
編集:ワカモノラボ 有馬華香
写真:其田 有輝也

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