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1973年、東京の日常風景

「上原2丁目」
14分弱の映像作品。

住宅街の中にカメラが据えられている。
固定されたカメラの前に、そんなに幅が広くはない道が伸びている。
住宅街の中の道。歩道のない、車が2台すれ違うことができるかどうか、というそんな道だ。
その道は少し先で突き当りになっている。そこでT字路になっているらしい。
突き当りのT字路の道は商店街に続いているらしく、けっこう人通りが多い。
学校帰りの子供達。
背広姿の男。
買い物に行くらしい女性。
たまに車も通る。

作者は大辻清司。
竹橋にある国立近代美術館の所蔵作品展で見た。

ぼくが観たのは6月の初めだが、今回の所蔵作品展は5月23日~9月10日までなのでまだ開催中である。
いくつかの小特集が組まれていて、関東大震災から100年、という小特集に興味があって観に行ったのだが、そのほかに写真家の大辻清司の特集もあった。
写真には全く詳しくないので名前も知らなかったが、
「戦後まもなく前衛的な作品で注目され、書き手や教育者としても存在感を示した大辻の足跡を、関わりの深い美術作品もまじえてご紹介します」
とのこと。

写真家なので当然だが写真が多く、映像作品はこれ一つだったと思う。

おそらく作者の意図とは別のところで、非常に惹かれるところがあり、しばらくこの映像の前に座って(ちょうど椅子があったので)眺めていた。

この作品が制作されたのは1973年。
ぼくの子供時代の風景なのだ。
上原というのは代々木上原で、ぼくはそんな都会的な住宅地ではなく、もっと西の方、多摩地方の畑に囲まれたような住宅地で育ったのだが、それでもひどく懐かしい気持ちになった。

〇木製の電信柱。
(あの黒いコールタールの匂い)

〇普通に子連れで近所に買い物に行くような奥さんでも、スカートの丈は膝上。

〇ある程度以上の年齢の女性は普段着が和服の人が多い。
(ぼくの祖母は母方も父方も、どちらもいつも和服だった)

〇パンタロン

〇キャリーバッグを、旅行とかではなく日常的にガラガラひきずる光景を見るようになったのは、割と最近、ここ10年くらい(?)のことだと思っていたのだが、そういえば、キャリーバッグとはちょっと違うのだが、近所に買い物に行く時にガラガラと引きずる買い物袋というかバッグというか、安っぽい合成皮革のやつ、あれは昔からあったなあ。うちの母親も持っていたっけ・・・

この作品が撮られた時に、何十年も後にこの作品を見る者にノスタルジーを感じさせる意図が作者にあったわけは無い。
ただ、カメラを固定して、道を行きかう人々をとらえる手法が、結果的にその時代の空気をまるごとつかまえることになり、その空気にこちらが勝手に懐かしさを感じたというだけなのだが・・・。

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