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宮城道雄記念館

宮城道雄(1894年―1956年)
日本の作曲家・筝曲家
幼いころにかかった病気のため次第に視力を失い、7歳の頃に失明。
8歳の時に箏を習い始め、11歳で免許皆伝。
箏の奏者としてだけでなく、作曲者としても知られる。
第一作の「水の変態」は14歳の時の作品。
その後、浮き沈みはあったものの、大正から昭和初期にかけて、西洋音楽の要素も取り入れた新しい邦楽の第一人者として活躍した。
1956年、大阪での公演に向かうために乗っていた寝台列車から転落して死亡。
代表曲は「春の海」。

というのは今さっきネットでざっと調べた。

邦楽の世界ではすごく偉い人らしいが、その方面には全く知識がないので実は良く知らない。
ただ「春の海」という曲はさすがに知っている。
この曲は日本人ならほとんどの人が聴いたことがあるだろう。
ピンと来ない人も、正月のテレビ番組・・・割と落ち着いた雰囲気の、きれいな和服で着飾った女性が並んでいるような番組、を思い浮かべていただいて、そこに流れているゆったりとした和風の音楽・・・ちゃん、ちゃらららちゃららんっ、という琴のメロディが聞こえたらそれが「春の海」である。

邦楽をほとんど知らない自分にとっては、宮城道雄といえば内田百閒の随筆にたびたび登場する琴の師匠、というイメージだ。
内田百閒は宮城道雄に琴を習っていて、逆に宮城道雄が随筆を書くときにはアドバイスをしていたという。
(琴なのか筝なのか、これも調べると色々あるらしいのだがここでは適当に使い分ける)

そんなわけで名前は知っているけどほとんど知らない宮城道雄の記念館に行って来た。
最寄り駅は都営大江戸線の牛込神楽坂。牛込神楽坂駅からは徒歩3分。
飯田橋駅、あるいは神楽坂駅からだと徒歩10分。

展示室は二つ。
第二展示室は映像が見られるらしいのだが、時間の関係でこちらはほとんど見なかった。
第一展示室には写真・楽器・点字楽譜・宮城所有のレコード、愛用の身の回りの品々などなど、が展示されている。

身の回りの品では小さな可愛らしい根付なんかが多かったのが印象的。
宮城はその可愛らしさを目で見ることはできなかったわけだが、その手触りを愛でたという。
楽器に関しては、宮城道雄自身が考案した楽器というのがいくつか展示されていて興味をひかれた。
中でも「八十絃」という、その名の通り八十本の絃を張った箏が、その大きさもあって圧倒的な存在感だった。

「箏の特性を生かし、しかも和洋の音楽が奏せられるように」ということで考案された、ということ。
クラシック音楽の世界でも、ロックミュージックの世界でも、演奏する人間が自分で楽器を考案する、ということはあまり多くはないような気がする。
邦楽では良くあることなのか、それとも宮城道雄が特殊なのかはわからない。

宮城道雄が初めて作った曲「水の変態」を聴くこともできた。
「春の海」の落ち着いた雰囲気しか知らなかったので「水の変態」の、時に激しい曲調、技巧的な演奏に驚いた。
14歳の時の曲、ということで「ぼくはこんな風に弾けるんだぞ」という若々しい自負みたいなものが感じられるような気がした。

第一展示室の最後の方に、宮城道雄の言葉が飾られていて、ずっと筝を弾き続けたい、死ぬ間際まで筝を弾くことが出来たらどんなに幸せかと思う、というようなことが書いてあった。
結局、公演に向かう寝台列車から転落して死んだのだから、その希望はかなった、ということになるのだろうか。
その言葉を読んでふと、今年の1月に死んだ鮎川誠のことを思い出した。
鮎川誠が死んでからYouTubeでライブやらドキュメンタリーやらを色々観たが、そのなかで鮎川誠が「最初にやりたかったことを死ぬまでやるのがロック」と言っていたのが印象に残っていた。
鮎川誠もまた、死ぬ間際までギターを弾き続けたわけだ。
宮城道雄と鮎川誠を並べる人もあまりないだろうが、
・弦をはじくことで音を出すタイプの弦楽器の奏者
・奏者だけでなく作曲もする、
・日本人
・男性
・故人
と並べてみると、そんなに遠くは無い気もする。

死ぬまでこれをやり続けたい。
そうできればどんなに幸せだろう。
そんな風に一身に打ち込める事に結局出会えなかった自分としては、ひどく羨ましいような気持になる。
もちろんそれは、たんなる「出会い」ではなく、そんなふうに打ち込めるだけの情熱や、努力や、才能の問題だということはわかっているけれども。

展示室のほかに、記念館の建物の外に、「検校の間」という6畳と2畳の二間からなる小さな建築物がある。1948年に建築された書斎で国の登録有形文化財とされているとのこと。
「彼の家には『検校の間』と呼ぶ自室があって、座辺の諸品すべて盲目の彼の手に触れ易く配置してあった(後略)」・・・内田百閒「東海道刈谷駅」より

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