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「没後50年 鏑木清方展」

2019年に同じ東京国立近代美術館で「鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開」という展示を見た。
そうか、あれはコロナ前だったか。
そうだ、自分もまだ失業中だったな。
鏑木清方の代表作ともいわれる「築地明石町」という絵は1975年以降44年もの間所在不明になっていたそうで、それが発見されたということで行われた展示だった。

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(築地明石町)

独立した展覧会ではなく、美術館の一室での特別展示、という形で、「築地明石町」以外の絵もあったがそれほど点数は多くなかった。
当時も今も、絵画に関して、特に日本画に関してはまったくの何もわからない門外漢だが、それでも「築地明石町」は、なるほど「幻の名作」と呼ばれるだけあって「おおー、なんかイイナ」と思ったし、他にも「鰯」や「明治風俗十二ヶ月」は強く印象に残った。

今回はその展示の規模をもっと大きくしたような展覧会。

第1章 生活をえがく
第2章 物語をえがく
第3章 小さくえがく
と、三つの章に分けられている。

第1章 生活をえがく
2019年の展示で見て印象的だった作品、「鰯」「明治風俗十二ヶ月」「築地明石町」などはこの第1章で見ることができた。

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(鰯)

もちろん今回初めて見たものにも印象的なものはあった。

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(春雪)

館内は写真撮影禁止だったので写真は購入したポストカードのもの。

第2章 物語をえがく
自分に日本の芝居についての知識がないということが大きいと思うのだが、この章は第1章に比べると印象に残るものは少なかった。
その中では「野崎村」という絵が印象的だった。
いわゆる「お染久松」の物語の一場面。
などといかにも知っている風に書いてみたが「お染久松」がどういう話なのかは知らない。歌舞伎も文楽も一度も見たことのない人間なので、こういう日本の伝統文化に類するものにほとんどなじみがない。
どうやらいわゆる心中もので、商家の娘お染と奉公人の久松の身分違いの恋の物語、ということ。
この場面は、ある濡れ衣を着せられて野崎村の実家に帰されていた久松を追って訪ねてきたお染が、母親に連れられて帰っていく場面らしい。
うつむき加減に前を向いて歩く無表情な母親と、顔をすこし横にむけて憂いのある表情をするお染の対比が印象的。
後で知ったのだが国立劇場(入ったことない)のロビーに飾られている作品で、切手にもなっているらしい。

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「お染久松」はよく知らないのだが、それに関するちょっとしたエピソードは知っている。
明治二十三年から二十四年にかけて日本でインフルエンザが流行した時、これを「お染風」と呼んだという(理由ははっきりしない)。そこで疫病を恐れた人々の間で家の軒に「久松留守」という紙札を貼ることが流行したらしい。
この話は岡本綺堂の随筆で読んだ。

二十四年の二月、私が叔父と一所に向島の梅屋敷に行った。風の無い暖い日であった。三囲(みめぐり)の堤下(どてした)を歩いていると、一軒の農家の前に十七、八の若い娘が白い手拭いをかぶって、今書いたばかりの「久松るす」という女文字の紙札を軒に貼っているのを見た。軒の傍には白い梅が咲いていた。その風情は今も目に残っている。
(岡本綺堂「二階から」より)


第3章 小さくえがく
この章が一番好きだった。
さらっと描いたように見える小さな絵。

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(築地川 亀井橋)

築地川というのは築地が埋立地として出来上がった時に築地を取り囲むように埋め残されて出来た運河で、今はごく一部だけが残っているらしい。

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(築地川 明石町)

明石町は明治2年に外国人居住地になったところとのことで、ずいぶん西洋風な感じ。
この絵の左手前の木の柵や、背景に見える帆船の帆柱などは「築地明石町」にもうっすらと描かれている。

一番気に入ったのは「夏の生活」、「金沢絵日記」という二つの作品。
どちらも横浜の金沢で家族で過ごした夏の生活を、墨と淡い色彩で描いたスケッチ風の絵日記。
残念ながらポストカードは無かったので絵を載せられないが、「築地川」よりもさらにラフなタッチで、なんともいえず良かった。
持って帰りたい、と思うような作品だった。
「築地明石町」は素晴らしいと思うけど、あれなんか家に持って帰ったらどこに置いたらいいのかわからずに困ってしまうだろう。
しかし「夏の生活」「金沢絵日記」はちょっと手元に置いておきたい気がする。

× × × × × ×

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(たけくらべの美登利)

この絵はポストカードを買ったのだが、実物は見てはいない。
開催の途中で展示替えがあるということでこの絵は4月5日から展示されるとのこと。
もう一回行くかなあ。
「夏の生活」と「金沢絵日記」も展示する場面が変わるみたいだし。


追記1.
結局一週間後にもう一度行って来た。
なんと一番先頭で入場することができたので、前回人が多かったのでちゃんと見なかった入り口付近の「11月の雨」「絵双紙屋の店」などもあらためてゆっくり見ることができた。
「たけくらべの美登利」も見ることができた。
「夏の生活」も「金沢絵日記」も全部違う場面が展示されていた。
その後に予定があったのであまり長い時間いられなかったが、大変満足した。

追記2.
これは前回行った時にもあったのだが、「第2章・物語をえがく」の中に「幽霊図扇面」という作品があった。
扇に幽霊の絵が描いてあった。
あれはなかなか良いな、涼しそうで。

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