7月27日の日記

私の住んでいる大阪には、「喜八洲総本舗」という和菓子屋がある。
注文してから焼いてくれるみたらし団子(ネギまのネギだけを串に通したような形状をしている)が有名なのだが、私が一等好きなものがあった。

鮎だ。

若鮎。どら焼きの皮のようなもっちりとした生地に求肥をくるんだ夏の和菓子である。

梅雨ごろになるとあちこちで見かけるようになるのだが、多くの鮎は餡子が一緒にくるまれており、餅の入ったどら焼きでしかない。
その点、喜八洲の鮎は求肥だけが使われており、ほどよい甘さと弾力があって夏に最高なのだ。口内がべたつくあの感覚に襲われることもなく、量食べても胃にもたれない。喜八洲の鮎市販のものに比べると身も太く大きめなのだが、最後まで一度も嫌な気持ちにならずにいられるのである。

しかし、この鮎、あまりの人気っぷりに夕方になると売り切れていることがほとんどだ。店の前を通りかかるたびに商品棚をチラ見し、食品サンプル(傷みやすいからか、喜八洲では展示してあるのはサンプルだけだ)を隠すように張られた「入荷待ちです」が目に入った時のなんと悲しいことか。
というか、これだけ売り切れになるなら夏の一番人気は彼な気がする。そう思うくらい、鮎はすぐにいなくなってしまうのだ。本物と違って値段は変わらないが、入手機会が少ないのは同じだ。

そして昨日。
帰りに少し寄り道して立ち寄った喜八洲で、私たちは再会を果たした。食品サンプルのつややかな断面がこちらを見ている気がする。
私の前には3人しか並んでいなかったため、列の後ろに並んで必死でお祈りタイムをかました。威勢のいい店員の口から「あゆ」という美しい二音が聞こえてこないことを願い、数分後、とうとう私の番が来た。

商品棚を見る。

大丈夫だ。知らぬうちにいなくなった鮎はいない。

「あゆ、5つください」
「すみません、鮎残り3つなんです」
「じゃあ3つでいいです」

他の人のことなど知ったことか。私は残っていた全てを買い、意気揚々と家に帰り、傷まないように冷蔵庫に入れて眠りについた。

翌日。つまり今日。
予定通り今年の初鮎を口に運んだ私は、違和感に首を傾げた。

なにか固いものが入っている……?

慌てて確認すると、固まった求肥だった。
冷やしすぎたせいで完走した餅のようになってしまったらしい。
もちもちの皮もなんだかパサついていて口の中でもろもろに崩れる。
求肥はともかく、皮はもう元には元には戻らないだろう。

まだ冷蔵庫にはひやしたままの鮎が2つ残っている。いくら胃にもたれないとはいえ、3つ一度に食べられるような大きさではない。

今度からは買うのはひとつだけにしよう。
そしてその場で全部食べよう。

私はそう胸に誓い、残りの求肥を冷蔵庫から出したのだった。


p.s. 案外3ついけました。

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