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アイシングの是非を問う


たびたび、アイシングの是非はピックされる話題です。

最近も神戸大学の研究[Kawashima M et al.,2021]よりアイシングにより回復が遅れる可能性が指摘されました。
これは一部メディアでも拡散され、医療従事者のみならず、一般の領域まで広がっているように見えます。

アイシング

このツイートだけみてみても、「アイシングは筋肉損傷の回復を遅らせる」という"拡大解釈"したタイトルで広められ、コメント欄でも「つまり冷やさない方が良いという事」というコメントも見られ、極端な解釈が見て取れます。

このミスリードさせる(論文ではなく)ニュースには他の先生からの指摘があり、「この頻度のアイシング処置」は「この実験でのマウスの筋損傷モデル」において筋繊維の回復を遅延させることが分かりましたというコメントはもっともだと思います。
この頻度は「30分間、2時間ごとに3回行い、損傷2日後まで」を指しています。


今回は「30分間、2時間ごとに3回行い、損傷2日後まで」というアイシングプロトコルですが、最適なアイシングプロトコルは不明であり、臨床は個人の判断で時間を決めているところが多いかも知れません。

私の知る限り極端な例では足を怪我してから、ほぼ毎日のように数年間1日10分程度アイシングを行なっている人も見たことがあります。
そのような医療機関ではもはやアイシングは思考停止に行われていますし、ここまで極端ではないにせよ、臨床現場で用いられているアイシングプロトコルは様々な方法があることが想定されるため、各研究、各臨床現場を一致させて考えるの困難です。

因みに過去の類似した研究では、損傷のさせ方、アウトカムまでの日数、アイシングの方法に違いがあり、Takagiらの研究[Takagi R et al.,2010]と別の研究[Singh DP et al.,2017]では損傷直後に20分のアイシングを行なっています。

これら3つの研究はすべて筋損傷のさせ方が異なることも注目すべきポイントです。Kawashimaらの研究[Kawashima M et al.,2021]では損傷の方法に遠心性収縮を用いているのに対し、Takagiらの研究では[Takagi R et al.,2010]30秒間組織を押し潰しており、Singhらの研究[Singh DP et al.,2017]では重りを上から落として損傷させています。
そのためこれらは異なった損傷を検証しています。

さらに、アウトカムを何日後に設定するかも注目すべきポイントです。なぜなら損傷のさせ方は異なるものの、アイシングは同様に行なったTakagiらとSinghらの研究では14日後ではなく、28日後で相反する結果が得られており、Singhらは「結論として,アイシングは炎症細胞の浸潤,血管新生促進因子の発現,および損傷後の筋肉の血管容積の変化を減弱または遅延させた。しかし,これらの効果は毛細血管密度を減少させたり,効果的な筋再生を妨げるのに十分ではなかった。(原文:In conclusion, icing attenuated or delayed the infiltration of inflammatory cells, the expression of proangiogenic factors, and change in vessel volume in muscle following injury. However, these effects were not sufficient to reduce capillary density or prevent effective muscle regeneration.)」[Singh DP et al.,2017]と記載しており、2021年のKawashimaらの報告は損傷後14日目でアイシング群と対照群を比較しています。

研究における条件設定はアウトカムに大きな影響を与えるため、これらの結果をヒトのさらに様々な部位に一般化することはできません。
理解すべきは、あらゆる条件で回復が遅れることが"示された"わけではなく、「限定的な条件で回復が遅れることが"示唆された"」ということであり、自身の臨床での使用とどれだけ類似性があるかを確認することが重要です。

さらに神戸大学のWebsite(https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2021_04_23_01.html)には
▶︎「回復を早めるために冷やさないという選択肢がある」
▶︎「今回のようにアイシングを施すと回復が悪くなってしまう重い筋損傷がある一方、アイシングを施してもよい程度の軽微な筋損傷、というものが存在する可能性も否定できません。その線引きが今後の課題です。」
と記載されており、「アイシングをしてはならない」とは書かれていません。

ただし、これだけでは同時に「アイシングをやる」理由にもなりません。

というような背景を踏まえて、さらに

アイシングに関する急性外傷の処置はこれまで、「RICE」から「PRICE」へ、そしてさらに「POLICE」へアップデートされ、最近では、即時ケア(PEACE)とその後の管理(LOVE)までの連続体を含んで「PEACE&LOVE」が提唱されています[Dubois B et al.,2019]。

これと同時にI(ce)という文字はなくなったことにも注目すべきかも知れません。

ここではアイシングに関する幾つかの研究とそれを踏まえて、アイシングをどう解釈し、使う場合にはどのようにつかっていくべきか考察を深めていきます。

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