大相撲・令和6年九州場所初日 - 上位力士は不利になっても簡単に負けない
大の里 - 平戸海
https://www.youtube.com/watch?v=Il2jwU7R0ek
立ち合い、平戸海がいつも通りやや早く立つ。
立ち遅れた大の里。おっつけは間に合わず、平戸海がモロ差しを果たす。
立ち合いは平戸海優位の流れだったが、大の里は咄嗟に反応する。
右脚に一度体重を乗せ、左から揺さぶる。この時点で平戸海の重心が大きく左に傾く。
大の里はすかさず左からいなし、右脚を下げて空間を作る。平戸海の力の向きが、完全に大の里の正面から外れる。
さらに追撃する大の里。右脚を軸に左から突き落とす。右脚の力を左腕に上手く伝えており、体勢も整っている。平戸海は自分の前進する力と大の里の突き落とす力を制御しきれず、体が飛んだ。
琴櫻 - 正代
https://www.youtube.com/watch?v=7wrpHPqMj5c
正代がやや受ける立ち合い。琴櫻は踏み込みが弱く、腰が伸びた体勢で当たる。
正代が下から押し上げる。琴櫻は重心が高くなっており、受け止める力が弱い。ずるずると下がる。
好機と見た正代。すかさず前進する。しかし、両おっつけはハマらず、外から挟む形になる。
土俵際で形勢は逆転する。おっつけを回避した琴櫻。両腕をのぞかせ、少し差し手を返す。正代は脇が空き、重心が上がる。
琴櫻が右から突き落とす。正代は重心が高くバランスが悪いうえ、前進する力もうまく利用され、こらえることができなかった。
正代が勝つには、前進しながらおっつけを成功させ、琴櫻の重心が高い状態を維持しなければならなかった。
上位の力士との取り組みでは、完全に自分優位の体制になることは少ない。
そのため、少しの隙(今回は、琴櫻が立ち合いで重心が上がったこと)を見逃さずに攻め立てる必要がある。
しかし、それだけでは足りない。有利を拡大し、勝負を決めるには、他の要素(今回は、左右のおっつけで琴櫻の重心を高く保つこと)も必要。そして、それは素早く攻めながら実現しなければならない。
正代は十分な優位を築くことができなかった。大関相手でなければ、腰高になっても押し切れたかもしれない。
少しの優位を見逃さずに攻めながら、十分な優位を作ると勝てる。そうしないと、勝てない。それが上位力士の相撲である。
「負けにくさ」も「大関らしさ」
この2番を見て、「負けそうになったけどなんとか勝った、危ない相撲、大関らしくない」と思う人の方が多いだろう。
両大関とも、立ち合いの攻防では負けたと言っていいだろう。しかし、不利な体勢になった後の攻防で勝ち、それを勝ちに繋げた。反応速度と、細かい攻防の勝ちを取組の勝ちに繋げる能力が見えた。
自分は、このような簡単に負けない相撲にも、安定して勝つ力士の要素を見出す。「大関らしい」とさえ感じる。
立ち合いは非常に重要である。しかし上位の力士は、立ち合いで不利な展開になったとしても、決定的に不利な体勢にならないよう素早く反応する。
下位の力士は、立ち合いで勝つだけでは不十分。その優位を維持したまま、上位の力士が仕掛ける何段階もの攻防を切り抜けないと、勝ちに繋がらないのである。
安定して勝つ力士とはどんな力士か。
まず、立ち合いで有利になる確率が高い。
立ち合いで有利な展開になったら、それを勝ちに結びつける確率が高い。(これが一般的にいう「大関らしい」相撲)
立ち合いで不利になったとしても、立て直す策を講じ、有利に転じる確率が高い。
これを満たすには、攻めも守りもどちらも優れていなければならない。
それには、心技体(精神力・技術力・身体能力)すべてが必要である。
琴櫻・大の里とも、他の力士よりもこの条件を満たしている。その上で、次の番付を担える勝率を実現するため、より高みを目指しているのである。
不利になった時にどう対処しているか。そこにも注目しながら、今場所も相撲観戦を楽しみたい。