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#6『Nizi Project』-J.Y Parkの力を引き出すフィードバック-

・まず最初に

本企画は、本を読み、書評を通して自分の姿を見つめ直すnoteにするつもりでしたが、あまりにも心が震えた番組を観てしまったので、本のみを題材にするルールを越えて、自分の思いの記録を付けたいと思います。

◎この番組に出会ったきっかけ

ある金曜日の夜にYouTubeで、たまたま数あるエピソードの中の一つを流し見していました。数分見ただけですぐ魅力に引き込まれてしまい、翌日に計画していた旅の予定を急遽変更し、土曜日に丸一日カフェに籠もって全エピソードを集中して、メモを取りながら(笑)一気見した。そんな出会いでした。

◎こんな番組だよ

Nizi Projectは韓国のプロダクション、JYPエンターテイメントと日本のソニーミュージックによる共同ガールズプロジェクト。世界で活躍するグローバルガールズグループを目指し、計10都市1万人の応募者の中からデビューメンバーを選抜する過程を、地域オーディション〜東京合宿編、韓国最終合宿編の2つパートで放送したオーディション番組。

◎こんな解釈をしてみました

この番組を見終わったのは実は少し前のことで、書き始めるまでに少し時間が掛かってしまいました。というのも、学びが多く広く、メモの量が膨大になってしまったので中々整理が出来なかったんです。笑
頭の整理がかなり終わった(と思っている)今でも上手くまとまるのか不安な所ではありますが、まぁひとまず書き進めてみましょう。
Nizi Projectを観た上での学びや感じた事の話をメインに展開しながら、僕のレフェリー論を所々挟んでいくつもりなので、どうかお付き合い下さい。笑

この番組の総合プロデューサーであり、JYPエンターテイメントの創業者でもあるJ.Y Parkが今日の話の主人公です。分かりやすく例えるならば、AKBグループで言う秋元康的存在です。
ただし、48歳で社長業を務めながらも、今尚現役のアーティストであり、自らのパフォーマンスをもってアーティストとは何たるかを彼女達に示し続けている点は、決定的な違いであり、僕が彼の事を尊敬している所以なので、明確に記しておきます。笑

「オーディション番組」は、パフォーマンスをするオーディション参加者(この後は番組に合わせて練習生という表現をします)と、評価をするプロデューサー陣という構図で成り立っています。
そして、ここでの評価は多くの場合、その時のパフォーマンスが良かったのか、悪かったのかという2択で行われる事が多いかと思います。

評価する、評価を受けるということはオーディション番組に限ったことではなくて、我々も日常的に経験していることです。会社で誰が昇進するかという分かりやすい評価から、恋愛においても彼氏としてみられるか、彼女としてみられるかなんて評価も根本は同じことだと思います。笑

評価をすることはそもそも非常に難しい、という前提を用意してみます。
僕は我々が日常的に下している評価は、実はすごく難しいプロセスを経ているんじゃないかなと思っています。

例えば、2種類のかき氷があり、どちらが美味しそうか考える時、(夏なので笑)
見た目の豪華さや、色、値段、口コミ、横の人が美味しそうに食べていた、友達と被らない方にする等、様々な要素を直感的、または論理的に考えて、美味しそうな方を決定すると思います。
この時、なぜAのかき氷を選んだのか、直感的要素を人に納得してもらえる様に説明するのは意外と難しくて、最終的には言葉にし切れない「なんとなく」の要素が結構多い気がします。笑
ですが、人を評価をする時には、「なんか美味しそうだったから」を「なぜ美味しかったのか」、分かりやすく説明する事が必要で、それが出来ないと、残念ながらその評価の信頼度は下がってしまうなと感じています。

レフェリーの世界でも、フィードバックというものが存在します。試合を観戦して、その直後に行なわれる評価者による直接のコメントや、数日後に試合の評価が点数となって来るもの、試合を担当したレフェリーが書き記した振り返りにコメントをするもの、様々な形があります。

その中で形は違えど共通しているべき事は、そのフィードバックが次への活力となることだと僕は思っています。
フィードバックという行為を通じて、次も頑張ろうと思ってもらう事が大事である、という話です。

この次への活力というのは、嘘の評価をして甘やかせたり、ただ優しく接することから生まれるものではありません。

被評価者に期待をして、
期待通りの、または期待を超えるパフォーマンスであれば喜び、素直に褒める事、
期待に満たない、改善すべき点があれば正直に、時に厳しい指摘をする事で生まれるものです。
(これがなぜ活力になるのかは後半でご説明します。)
これは、非常にシンプルですが、非常に難しい事です。

なぜならこの様な評価をする際、一貫した評価基準を保つことは、非常に難しいことだからです。

そもそも評価の仕方として、絶対評価(例えば、テストの点数で順位をつけるようなこと)の1種類しかない場合は、一貫した評価基準を保つことは簡単に思えるかもしれません。
日本では、これまでこの基準によって順位が多くつけられて来たのではと思います。

ただこの場合、点数に現れない個性的で素敵な考え方や意見、才能が埋もれてしまう可能性が大いにあると僕は考えています。
補足をしておくと、テストの点数が高いことを否定する訳ではありません。それも素晴らしいことだけど、評価の一番上に来るのではなく、他の評価基準と並列する要素の内の一つとして考える、ということです。

J.Y Parkが優れていたのは、才能を見出し、力を引き出す為に、多様な評価基準を用意していた事です。
その中の一つに、他人との比較ではなく個人の中で過去の経験を生かしどのくらい成長したのか、あまり成長はみられないのか、その変化を評価するものがあります。この指標は便宜的に「成長度評価」と呼びたいと思います。

少し前に、次への活力を生むために必要なこととして、次の3つを挙げました。
被評価者に期待をする。
期待通りの、または期待を超えるパフォーマンスであれば喜び、素直に褒める。
期待に満たない、改善すべき点があれば正直に、時に厳しい指摘をする。

この時、かけるべき期待のレベルは個人の現在の力によって変わるものです。その時々の個人の力を見極め、どのくらいの期待をかけるのか判断し、そのかけた期待にどのくらい応えてくれたのか評価を行います。
期待の度合いが異なる複数の練習生の評価を同時に行わなければいけないので、評価基準の一貫性を保つのが難しいのです。

ただ時に他人同士を同じ基準で比較しなければならない時があります。それは、人数を絞らなければいけない時です。今回のオーディションで言えば、デビューするに十分な力があるか。レフェリーで言えばある試合をコントロールするのに十分な力があるか。
この時は、個人の成長度合いがどんなに高くとも、基準に満たないと判断されたのであれば、メンバーには選ばれないという事が起こり得る訳です。
この指標を絶対的評価と区別する為に、「選抜の為の評価」と便宜上呼ぶことにします。

この選択も、テストを行い、点数の高い順に上から10人を選ぶ(=絶対評価)のであれば簡単に思えるかもしれません。
ですが、人間の能力の評価はなかなか点数化出来ないものです。
この時必要なのは、まずは目指す場所において必要な能力を正確に把握すること、
また練習生の現在の実力も正確に把握することが必要になります。そして、最後は未来の可能性にかける事になります。

なぜかと言うと、実際に目指していた場所に立った時、実力が全く発揮されないエラーが起きる可能性も十分にあり得るからです。
(今回のプロジェクトではその可能性を極力排除するため、プロさながらの豪華なステージでオーディションが行われていたので、このプロジェクトにかけるJYPの本気度を感じました。笑)

今の実力から未来の姿を想像し、可能性を見続ける、これが本当に難しく、忍耐が必要な事なのです。

ようやく本題に戻りますが、J.Y Parkによる練習生へのフィードバックは、「成長度評価」「選抜の為の評価」が明確に設定されており、全てのフィードバックは練習生の次なるモチベーションのために行われていました。

この番組では、2つの評価基準の軸が明確に存在し、必ず両方の評価基準と照らし合わせて評価が行われていました。
一つは、このプロジェクトの最終目的である「世界で活躍するグローバルガールズグループ」の一員になるために必要なレベルに達しているかという基準。
これが「選抜の為の評価」です。
そしてもう一つは、フィードバックを元に前回からどれだけ努力を積み上げたか、どれだけ真摯に取り組んできたかという基準です。
これが「成長度評価」です。

この時現在の実力だけで「選抜の為の評価」のフィルターを通すと、基準を満たしているのか、いないのかという非常に単調な評価になってしまいます。
ですが、この2つの軸を持っていることで行う事が出来る評価がすごく豊かなものになるんです。

例えば、実力はまだ足りないけど成長が見えた時には、
「ダンスの粗っぽさがなくなっていたので、驚きました。歌もダンスも前回よりも確実に上手くなりました。でも、その成長は僕があなたの実力を分かっているので他の練習生より期待値がかなり低いです。デビュー出来るか出来ないかを決めるので、これからはもっと本当に頑張らないといけませんね。」
という評価をする事が出来ます。

また一方で、ある分野の実力が既に十分に備わっているけど、それ以上の成長がない場合、
「あなたが素晴らしい歌手なのは十分に理解しています。今回は違う一面を見せてくれると思っていたので残念です。曲の魅力を最大限生かして歌うこがこれからの成長のポイントです。次に期待しますね。」
という評価になるわけです。

「イケてるのか」「イケてないのか」という評価では感じることが出来ない評価の豊かさがありますね。

番組内では、ミッションとして個人パフォーマンスやチームパフォーマンスが課題として出されます。各ミッションでは、「スター性があるかどうか」「チームワークが発揮されるかどうか」など、上の二つに加えてミッションごとの評価基準が事前にJ.Y Parkから伝えられます。
番組の感想に、J.Y Parkの褒める力がすごいという意見が多くありましたが、その豊かなフィードバックを可能としているのは多様な評価基準の存在と、その基準を可能な限り対等に扱う彼の姿勢が為せる技だと思います。

さぁ続いては、「次へのモチベーション」の話をしましょう。

ここで一つ、ここでの話に欠かせない素敵な言葉をご紹介させて下さい。

2019年のM-1グランプリの後、審査員の1人である立川志らくが、惜しくも優勝を逃したかまいたちの漫才を、Twitter上でこの様に評価しました。

「自信と怯えの共存する文句なしの漫才」

志らくさんは、
「自信10の芸は鼻に付く。怯えが10の芸は見ていられない。自信が怯えを少しだけ上回った芸こそが魅力的な芸。」と言います。

この言葉を聞いた時、言い得て妙とはこのことだなと、僕は深く納得しました。

これは芸に限らず日常生活でも同じことが言えると思っています。
(人は生きている限り表現者なんだから、、という話をすると長くなるので別の機会にします。笑)

例えばお客さんとして接客を受け、何かの説明を受ける場合。
その店での知識を覚えたての新人さんが一つずつ思い出しながら説明をしてくれている時は、フォローしてあげたくなったり、なんだかこちらが気恥ずかしくなってしまうなんて事があると思います。
また一方で、店員さんの手際が良く、自信たっぷりでスラスラ説明してくれるんだけど、なんか機械的だなと感じてしまったり、置いてけぼりにされてしまっているような感覚になる時があると思います。

あくまで一例ですが、これが「自信10の芸は鼻に付く。怯えが10の芸は見ていられない。」という事の一つだと僕は思っています。

この言葉から、魅力的な芸、もっと言うと魅力的な人である為には「自信と怯えが共存」している事が大事だということを学ふことが出来ました。

ここで少し脱線をします。
この番組で、僕が印象に残っているもう一つのポイントは「表現者としての自信」です。

J.Y Parkは彼女達に対する評価の中で、表現者として持つべき自信、心構えの話を良くしていました。

例えば、こんなフィードバックがあります。
「ダンスの動作は下手ではないのに、その動作の裏に自信がないので動作が少し小さいです。その動作に思う存分感情を乗せられるくらいの自信が必要です。歌う時も観客の心を完全に奪うつもりでやらないといけないのに、そのような自信もなく、ただただ上手く見せようとしているように見えます。まるで試験を受ける学生みたいに。」

「ステージに立った時にだけ出てくる+αがあります。
練習室では出ませんが、カメラが回って照明がついた瞬間、自分でも気が付かない+αが出てきます。ただし、自信がある時だけ。」

僕はこの表現者としての自信は、プロ意識からくるものだと思っています。
一つ目は、いざステージに立つ時、緊張や不安により、例え自信より怯えが上回っていたとしてもステージに出る以上、「観客の心を完全に奪ってみせる」という強い気持ちを持って、怯えを上回らなければいけないという、プロとしての姿勢だと思います。

これはレフェリーでも一緒です。僕はレフェリーもまた表現者だと思っています。プレーを観察し、どう感じたのか選手に分かる様に、観客に分かる様に、また納得してもらえる様に表現する必要があるからです。

一度フィールドに出れば、もう学年や経験は関係ありません。レフェリーとしての役割を全うするまでです。ビックゲームや自分の実力以上の試合を担当する時でも、またはどんなに規模が小さい試合だとしても、試合が割り当てられた以上はプロです。
笛を吹いた後の選手の反応がどんなに怖かろうが、試合の序盤で大きなミスをしようが、決して表情には出さず、「自信を持てるだけの十分な準備をし、正しい判定を追求し続ける事」、これが怯えを上回る自信を保つ、プロとしての姿勢だと思います。

また、二つ目のフィードバックで言う自信は内面的な誇りが表に溢れたものだと思います。
僕が敬愛する人の一人に、写真家のヨシダナギさんがいます。彼女は立ち姿に惹かれてアフリカの少数民族やドラッグクイーンの姿を写真に収めているのですが、立ち姿に関してこんな事を言っていました。

「立ち姿まで美しい人ってなかなかいないんです。
内から溢れ出てくるドラマ、誇りが表に溢れ出てると立ち姿が美しくなるんじゃないかなと思います。」

J.Y Parkの言う+αというのは、この立ち姿の美しさだと僕は解釈しています。
ただ背筋をピンと伸ばす事だけでは到底届かない、美しい立ち姿の領域、存在感に到達するには日々の自分に打ち勝ち、周囲からの批判を乗り越えて来た自信と誇りが為せるものだと思います。

トップレフェリーの中でも立ち姿が美しい人がいます。彼らは謙虚であり、一試合一試合に真摯に向き合い、多くの批判を受けたとしても、変わらず努力を重ねて来た人の様に思います。レフェリーの世界では、時たま、その存在感が判定の説得力の一つとなり、自分を助けてくれる時があります。レフェリープレゼンスと言われたりもします。まさしく+αの世界ですね。

さぁ本題に戻りましょう。

再び長い脱線を経て、戻って来るのはJ.Y Parkのフィードバックです。
先ほどの2つのフィードバックを思い出してみてください。
少し省略してもう一度引用します。

実力は足りないけど成長が見えた時、
「前回よりも確実に上手くなりました。でも、デビュー出来るか出来ないかを決めるので、これからはもっと本当に頑張らないといけませんね。」

実力は十分にあるけど、さらなる成長がみられない時、
「あなたの実力は十分に理解しているので、違う一面が見られず残念です。そこがこれからの成長のポイントです。次に期待しますね。」

というフィードバックを行っていました。

「自信が怯えを少しだけ上回った芸こそが魅力的な芸」という言葉を参考にしてみると、
上のフィードバックは、他の練習生と比較した際、実力不足から劣等感を持って臨んでいる(=自信より怯えが上回っている)練習生に対するものであり、現実的な厳しさを伝えながらも成長を認め、自信を付けさせているように見えます。

一方下のフィードバックは、他の練習生が羨むような実力を見せつけた(=怯えより自信がかなり上回っている)練習生に対するものであり、実力は十分に認めながらも更なる成長を願い、改善出来るポイント敢えて厳しい態度で伝え、ハッとさせる事で謙虚さ(=怯え)の度合いを増やし、自信と怯えのバランスをちょうど良い所にコントロールしているように見えます。

この自信が怯えを少しだけ上回った状態こそが、モチベーションを保ち、自ら取り組む心の健康を育む秘訣だと思っています。
逆に言うと、この状態に導く事が出来れば、「ちゃんとやりなさい」とか「自主練をしなさい」という類の言葉は必要がなくなり、勝手に歩んでいってくれると思っています。

自信と怯えのバランスを少しチューニングしてあげる感覚でしょうか。楽器の音が悪くなったら、チューニングして良いバランスに戻す必要がありますね。逆にバランスさえ戻せば、再び美しい音を奏でてくれるものだと思います。

自信が付くと嬉しくて、楽しくて、前向きな自然なモチベーションが生まれます。
怯えがあると、悔しさや怖さを乗り越える為、反骨心から強いモチベーションが生まれます。
この両方が大切なんです。

僕はこのバランスの取れた状態に導く事が「人の力を引き出す」事だと思っています。世の中の上手くいっていないと自分が感じている人、周りから思われている人は、このバランスが崩れてしまっていて、前向きになれていないだけだと思います。

少しバランスを改善すれば、たちまち魅力的な一面を見せてくれると思います。

レフェリーの仲間に接する態度も同じです。
レフェリーの楽しさを見失ってしまっている人には、新たな角度のレフェリーの魅力や成長を伝えて「楽しい」と感じてもらう。
役割としてのレフェリー責任の厳しさが経験を重ね、慣れていくにつれて失われてきてしまい、一つ一つの試合を大切に出来なくなっている人には、レフェリーという存在の重要性や責任を改めて伝え、その上で自分が完璧ではないことを思い出してもらう。

これは自戒の念も込めて、ですね。笑

フィードバックにおいて、褒めることや、説教をすることは目的ではありません。
そのフィードバックを通じて、良い評価でも厳しい評価でも、次へのモチベーションが生まれる事が一番大切な事です。

立場が上になるに連れて、フィードバックをする時、責任感から何か指摘をしなければいけない、指摘する事を見つけられなければ自分は上の立場にいられないのではないか、という気持ちになる事が多くあると思います。
でもその時思い出してほしいのは、責任を持つべきは次へのモチベーションを引き出す事だという事です。褒める事も、叱る事もそのモチベーションを上げるための方法の一つでしかないので、ぜひそこに囚われないでほしいなと思います。

そんな僕の思いを、とんでもなく高いレベルで表現し、関わる度にみるみる練習生の力を引き出してしまった、僕の尊敬する人、J.Y Parkさんのお話でした。

だいぶ長くなったので、今日はこの辺で。

それでは。

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