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Vol.2 心を動かされた試合編 -レフェリーは感動を支える存在-

前回書いたソッカー部の話の中で、
僕の処遇を決めるミーティングの話をご紹介しました。

「ソッカー部にどうやって貢献するの?」ということが問われる場なのですが、

僕はレフェリーとしての貢献しかできない、ということと
普段の紅白戦や練習試合からちゃんとレフェリーが吹くことがチームの強さの一助になるということを伝えました。

それに対しての反応が僕にはこれまで深く突き刺さっています。

「レフェリーなんて誰がやっても一緒じゃん。別に誰か空いてる選手がやればいい」

もちろん僕への当て付けでその場の勢いで出た発言だとは思います。

ですが、僕はレフェリーによって試合は良くも悪くも大きく変わるということを本気で信じていたのでショックを受けましたし、
ピッチ上でレフェリーとしてなに一つ表現出来ず、それを証明出来ない、言い返せない自分を悔しく思いました

ソッカー部を辞めてからも、
辞めてからも3年が経った今でもこの言葉は僕の中に深く突き刺さっていて、

レフェリーをやる上で、僕の中での大きなモチベーションは、
一つは、「ソッカー部の同期に僕がレフェリーを頑張っている姿を見せること」

そして一番強いモチベーションは、
「レフェリーによって試合が大きく変わることを証明すること」
つまりは、
「レフェリーに力があれば、選手の技術、チームの戦術をもっと引き出して、選手もプレーしてて楽しい、観客も観てて楽しい試合を創ることができると証明すること」でした

自分の実力と想いがなかなか一致しなくて苦しかった、そんな時に今回のnoteのメインテーマである、心を動かされる試合を目撃してしまうわけです。

その試合は、
東京都の高校生の3番目のカテゴリーのリーグ戦
ナイターの試合で、
シーズン終盤で両チーム共に来シーズンの昇格がかかった試合でした

担当したレフェリーは、ある研修大会でご一緒した元Jリーグ審判員で、
その合宿の中でも、試合を観る機会がありましたが、僕がどうやっても話を聞いてくれなかった関西の大学のFWを、別の試合でいとも簡単にコントロールしていたようなすごい人です。

むしろ、従順な犬の様にレフェリーの言うことを聞いて実直にプレーさせていて、
でもパワハラ的なことは全くなくて、
そのレフェリー自身も楽しそうにやっているのです
その姿に僕は衝撃を受け、強烈な憧れと嫉妬を抱きました。

「俺もこんな風なレフェリングをしたい」と。

そんなご縁もあって、「試合あるけど観に来るかい?」とお誘いをもらったというわけです。

話を先ほどの試合に戻します。

試合が始まると、
やはり「昇格」がかかった試合です
両チームとも高いモチベーションと勢いを持って試合に臨んできています。

その中でもレフェリーは、
激しい接触を冷静に見極め、効果的なタイミングで選手に声を掛けることで選手の集中力を保たせます
また、ファウルと判定したときには、そのファウルの質に応じて笛の吹き方で効果的に選手にメッセージを伝え、
再開時には選手の気持ちが切り替わるまで必要に応じた間を取るので、選手は前のプレーを引きずりません

その結果立ち上がりこそ両チームはバタついたものの、
気がつくと22人の選手たちは緊張もほぐれサッカーに集中するようになり、

片方のチームは選手同士が近い距離を保ち、テンポの良いパス回しから何度もゴール前に迫ります
もう片方のチームは決死のディフェンスから奪ったボールを足の速いFWの裏を狙って徹底的にボールを供給し、前線ではどちらがボールを収めるのかという見応えのある駆け引きが繰り返されました

球際は相当激しいものでしたが、両チームとも軽い接触では倒れず、踏ん張りプレーを続けます
その瞬間、レフェリーから「アドバンテージ!」の声が飛ぶので選手も安心してプレーでき、試合がどんどんエキサイティングなものになっていきます

観客は選手の息遣いを感じるピッチサイドで食い入るように試合を見つめ、
ワンプレーごとに喜んだり、悔しがったり声が途切れません。

両チームの技術、戦術が発揮された
選手もプレーしてて楽しい、観客も観てて楽しい試合、最高の試合でした

僕は「これだ」と思いました。
「目指していた雰囲気はこれだ、とんでもない試合を目撃してしまったぞ」、と

極め付けは試合終盤
ショートパス主体のチームが1点リードする中で、
本部とは逆のタッチライン付近からのリードしているチームボールでのフリーキックの再開と、選手の交代が重なった場面がありました

先に選手の交代の手続きが行われるのですが、レフェリーはサブの選手が出てくる本部の方を見ることになります

すると、レフェリーが見ていないところで、フリーキックを行うチームのキッカーが5mほどボールを前に出しました
その行為が見えている観客席の僕は、まぁレフェリーどうやっても見えないから仕方ないよなぁと思っていたのですが、
その瞬間、副審がバタバタっと旗をあげ、ボールが前に出されたことを主審に伝えたのです

この試合の副審は両チームから高校生が1名ずつ行う規定になっていて、
立場としては、僕がこのnoteの中で記したようないわゆる帯同審判であり、さらにそのシーンで旗をあげた副審はなんとキッカーの味方チームからの帯同審判でした

副審が高校生の帯同審判の場合、普通そのような状況ではほぼ旗が上がることはないので、僕はまた衝撃を受けてしまいました
試合後、その副審に話を聞くと「いや、今日の試合でボール出したのはダメだと思って迷わず旗振りました」と話してくれました。

レフェリーは副審にも魔法をかけてしまいました笑

結果的にそのリードを保ったまま試合は終わります。
勝ったチームは昇格、負けたチームは残留です。

喜び抱き合う選手たち、崩れ落ちる選手、またその選手に声を掛け手を差し伸べる相手チームの選手。

中央での挨拶を終えると両チームの選手たちが観客席の方まで来て、相手チームのサポーター、自チームのサポーターに挨拶をします
どちらが勝ってもおかしくなかった、良い試合を見せてもらったと割れんばかりの拍手です

その後、負けたチームの自チームサポーターへの挨拶がグラウンドを感動の渦に包みました。

キャプテンが前に進み出ると、泣き顔ながら、でも堂々とした立ち振る舞いで、

「今日はありがとうございました。
今日の試合は負けてしまったので、昇格はありません。ですが、僕らにはまだ選手権があります。今日の敗戦は切り替えて、また明日からしっかり準備して試合に臨みたいと思うので、応援よろしくお願いいたします!」

その瞬間、相手チームの応援席からも先ほどを上回る拍手が起き、「良い試合だったよ!ありがとう!」と声が飛びます

試合後はその感動を共有した観客の中で言葉は交わさないものの素敵な一体感が生まれていて、多くの観客がしばらくその場を離れることが出来ず、みなさんが動き出す頃にはかなり時間が経過していたのが記憶に残っています
全員がこの雰囲気にもう少しだけ浸っていた気持ちになり、これを邪魔するわけにはいけないと感じていたからだなと思います。

例えば、めちゃめちゃ浸って見入っていた映画が終わり、映画館が明るくなったけど、ちょっとまだ出る気にはなれなくて、中途半端に感想を言うと自分の言葉でせっかくの雰囲気が壊れるような気がして「いやー、、」としか言葉が出てこないような、そんな感覚です笑

これを書いている僕も数年前の出来事ですが、未だに思い返すと心が動かされます。

サッカーの魅力ってこれなんです。

そして、このような試合に立ち合い、その試合を支えることができるのがレフェリーの魅力です。

サッカーの感動は、世界のトップレベルのW杯とかチャンピオンズリーグとか、または同じ高校生でも選手権だとか、大きい試合だけにあるものではありません。

今回取り上げた試合は高校生の3番目のリーグ戦の中の一試合です。
見る人が見たらレベルはそんなに高いものではないかもしれません。

ですが、どんな試合にも「勝利」を目指した選手の思いがあり、その思いがピッチ上でぶつかり、それを見守る観客がいます。

それだけで感動を生む条件は十分揃っています。

それが公式戦であれば、レフェリーが存在していて、
レフェリーはその思いを受け止めて、選手が集中してプレーできる環境をつくるために全力を尽くします。

でも、レフェリーによってはその思いを異なる方向に解釈してしまったり、
受け止めきれなかったりします。

「勝利への思い」が強く出てしまった結果、それがレフェリーに向かって来た時に無慈悲にその行為が異議であるとしてカードを出したり、
選手との間に壁を作り、一切言葉を交わさないようなレフェリーがいたり、というようなことですね。

だから、「レフェリーによって試合が大きく変わる」んです。

もちろん、異議を出さないのが良いレフェリーでもないし、選手と言葉を交わすから良いレフェリーというわけではありません。
その都度、その状況における選手の思いを受け止め、そこにマッチした対応が出来るのが良いレフェリーだと僕は思います。

僕がここで伝えたいのは、
レフェリーの手続きが良い悪いではなく、
「思いを受け止めてから、行動を決めているかどうか」ということです。

この試合を観た当時よりも、僕の受け止められる思いの量や種類はだいぶ増えたと感じていますが、まだまだ足りません。

これからも
「レフェリーに力があれば、選手の技術、チームの戦術をもっと引き出して、選手もプレーしてて楽しい、観客も観てて楽しい試合を創ることができると証明する」ために頑張りたいと思います。

だいぶ長くなったので今日はこの辺で。

それでは。


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