河童8

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村はずれ。村からは少々距離がある。
お日様が昇れば何処かに人の気配もあると言うものだが、夜の夜中は不気味な暗闇。
そんな場所にある社だから、立派ではないが広さもそこそこあり、囲炉裏もある。側には坊主が明るいうちに集め置いた薪があり、それを康介が火に焼べる。
湿気のある薪は少々煙もつよかった。
その康介の左手側に、入り口を背にした坊主が座り、康介の向かい側、坊主の左手側に意識を戻した娘が静かに座り暖をとる。
三人は何も喋らず静かに座る。

坊主も生臭坊主一人の男。
いくら人助けでも若い娘の肌は薬にも毒にもなる。
見ないようにしても見てしまう。

康介は康介で、若さゆえの落ち着きのなさが頭をもたげる。若い娘が側にいるのは、今、毒になるだけだった。
坊主か側にいなければ、毒に支配されていたであろう。

娘も暖をとりながら思う。
意識ないとしても、今の状況。
男に肌を見られ触られたことは恥ずかしくあり、今は濡れた着物は囲炉裏の熱で乾かし、坊主のぼろ着を着込んでいる。
目覚め、濡れ着と肌の間にぼろ着があるのは驚いたが、先程の外での出来事に比べると、どうと言うことも無いように感じている。

暫しのあいだ、言葉を発するものはいなかったが、若さゆえの怖いもの見たさか、先程まで娘の胸元にあった腕へと康介が視線を向け一人思う。
「私は若く、そして女は恐い。この奇妙な腕の存在も忘れさせる」
一人ため息をつき視線を青ずんだ腕にとどめている。

坊主の方は静かに己の呼吸に意識をむけている。
娘は今、微動だにしていない。

康介は二人の意識を自分に向けさせるために呟いた。
「・・うん。河童の腕か。」
隅に落ちている腕の指には、水掻きらしきものがあるように見える。康介は自由の効く腕で顎をさすりながら。
「坊主どの。あの腕には膜のようなものがついた指があるようですが、その、つまり、水掻きのための物ではないかと。・・・やはり、その。」
康介は息を吐き、深く息を吸い込むと。
「是はモノノ怪ではないかと。」
康介は噂には聞くが見たこともないバケモノ、妖怪と言い切ってみた。
自分が突拍子もないことを言っていると思いつつも、目の前に腕が落ちている現実を、疑いつつも言葉にしてみる。
康介は顔を坊主に向けてみる。
坊主は腕組み足組み火を見つめ「うむ」と一言。
頭を康介に向け、
「昔話、おとぎ話で、聞いていても、見るのはこれが初めて。・・周りに妖怪変化の話をしても、見たと言うものはいなかった。」
坊主は云い終えると娘に顔を向け、
「娘、その生き物のことを今一度思いだし語ってくれ。細かいことも。」


自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!