河童18

見張りは、小さな日よけの小屋をたて、山の奥から、わき出た水を集める池のそばに座り見るだけだった。その池から皆で造った水路の方へ水が流れていくのを見守るだけだ。
なので、昼間のうちは幼き頃の年寄りも見張りについていた。

その日も暑く、雲ひとつない青い空がひろがっていた。入道雲もみえず、雨を降らす期待の欠片もない美しい空であった。
幼き頃の年寄りも涼しくなった夕暮れ時。交替が来るであろう時まで、ちょろちょろと流れる水に足を浸し涼をとっていた。
足首が浸かる程度の水溜まりのような流れは透き通っている。まだ、地の底から染み出る水は枯れていないのが分かる美しさがあった。
しばらく見とれていると、隣の村から交替の男がやって来た。
二人のはずだが一人歩いてくる。
暑さのためか、一人は寝込んでいるらしい。
替わりになる男は、まだ山に入ったまま帰ってないらしい。
幼き年寄りと一緒にいた男は、
「儂は仕事があるので」
そそくさと帰り支度をする。
そう言うことで、幼き年寄りが話し相手になるだろうとそのばにのこされることになった。
「すぐに来るだろうから、山の話しでも聞いてろ。」
帰り支度がすんだ男は足早に帰り始める。
すぐに来る者は来ることなく、日は暮れてゆく。
日が暮れてしばらくまでは、隣村の男が、この辺りのおとぎ話、山の神様のはなし。妖怪。モノノ怪のはなし。それらを面白おかしく、幼い年寄りに話して聞かせるので、お互い飽きることもなかった。
そんな話もすべて尽くし、交替の男も来ないまま。静まり返る夜は、隣村の男を眠りに誘う。

辺りは月明かりで照らされている。てらされているが薄明かり。
明るいと言えないが、暗闇ではない。
幼き頃の年寄りは、正直に水路に意識をむけて見張っていた。
ところどころ水面がキラキラと月明かりで光っている。細い川の流れは見張りの屋根のしたに、戻り座るとまったく見えない。
大人の背丈ほどの段差があるが、誰かが近づけば、それが分かるほどの明るさはあった。
辺りに狸でもいるのだろう。ゴソゴソと何かがうろついている気配がする。
小屋に居るもの達を観察するように、あたりをうろついているようす。
猟師でもある隣村の男の匂いを警戒してるのか、必要以上に近づいてこない。
幼い年寄りは男をおこし、狸を捕まえるべきかと思ったが、男を起こせば狸も気配に気づき逃げていくだろう。
捕まえる道具もここにはない。素手で追いかけまわされ捕まるほど狸も間抜けではないだろう。男を起こすのをやめ、まだ幼い年寄りは狸の気配を楽しむことにした。

そこそこの数いるのか、あちらに二つ三つ。こちら側にも三つ四つ。小屋を囲むようにうろついている。
「この中のなん匹が化けるのだろうかな。化けて現れるなら、女に化けるのかな。旅人だろうか。狸も腹を空かして化ける力がないのかも」

この夜の気配を感じさせる間合いに居るものが何であれ、一人でいれば得たいの知れない不気味だが、眠っているとはいえ、大人で、しかも山の男が側に居れば、夜の得体が知れない気配も楽しい友だった。

幼い年寄りも、男の寝息を聞いていると、眠気に優しく誘われ始める。座ったままウトウトしていると、お尻も痺れてくる。
幼さが眠たさを我慢できることはなく、そのまま身体を倒して眠りについた。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!