河童14

動きを無理矢理とめた坊主の首と膝に無理がかかり少々痛みが走る。
坊主は頂点に達した恐れと身体にはしった痛みに我を失くす。
「なんだっ、なんだっ」
意味もなく言葉を繰り返してしまう。
目の前に荷物を背負い立ちすくむ男の首もとをつかみ、社の中へ引き入れ押さえ込み、戸口に顔は向けずに、足で戸をきように閉める。

「なんだっ」
同じ言葉を繰り返しながら、無意識だろうが、刀を男の喉元に持ってゆく。
「なんだっ」繰り返す。

「なんだっ・・て、なんだ」
男もとっさに同じ言葉を繰り返す。
「なんだっ」
「なっ、なんだっ」
興奮状態の二人が、会話に遠い言葉を交わしている。

「だめです。坊主どの」
喉元に刀の峰を押し付ける坊主を制止して、落ち着かせようと脇差しを持ったまま、
「まあ、まあ、落ち着いて。ただの百姓ですよ。何者でもありませぬ」
声をかける康介。
刃がキラリと視野にはいる男は、固まるしかない。

少しの間があり、
「ふーっ」
坊主は息を吐き、男の首もとから刀をどかす。
坊主は刀を一度握り直すと、ゆっくり男から離れて、康介へと刀をかえす。

坊主は取り乱した詫びか、男の方へコクりと頭をたれ、目を伏せる。

康介が刀を鞘に納めながら、
「・・して、そちら方は」
康介が男たちに声かけ尋ねてみるが、まだ気が張ったままの男たちは、お互いに視線を投げ合っていた。

「近くの村の・・・。」
康介が静かに言葉をうながす。
「この夜中に、なぜ社へ」
村の百姓の男たちへと視線を走らせてみるが、誰からも言葉が出てはこない。

雨音だけが聞こえる。倒されていた男がゆっくり動き、立ち上がろうとする。「あっ」自分が動くと同時に坊主も動いたためか、坊主に顔を向け動きを止めた。

「大丈夫です。もう大丈夫」
康介が張り積めた場をとかすように言葉を出し坊主へと顔を向ける。
康介と目があった坊主はゆるりと頷き、胸を上下させている。

たくましさを感じさせる坊主も、よくよく見ると手は小刻みに震えていた。

身のこなしの確かな坊主。
それでも小刻みに震える今の異様を、社のなかで身にしみる。

康介は男たちの手に目を向ける。
社に転がるあの腕のあの指は、明らかにこの男たちの腕ではない。
男たちの腕は指の先まで日に焼けたくましく、土の色に近かった。

あの 指はもっと小さく蒼白く、弱々しい指だった。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!