河童16

バシャビシャと水溜まりを転げ、
「ぬふーぬふー」と、息をはく片腕。
「クフー」と、力を誇示するように、厚みのある息づかいで音を吐き、ねじ伏せる仲間。
一回り小さくみえるが、節々は「片腕」よりも一回りは大きそうなこの生き物が、この気味の悪い集団を束ねる大将のようだ。

噛みついている口には歯のようなものが見当たらない。
薄い唇の中には、歯茎であろうか、嘴のようなものがあるだけだ。

捻り伏せられた「片腕」は、無くした腕の痛みと悔しさで小刻みに震えていた。それを、
「解っておる。敵は獲る。勝手に動くな。」と、捻り伏せた大将が力で解らせている。

ただ奇怪で奇妙なだけでなく、この事で統率する、統率される。それぞれの力配分があるのが解る。
不気味で正体も知れず、知恵もあるのがうかがえる。この事が不気味さを強め恐れを起こさせる。

10

外は雨が降っているのか、どうなのか、雨の音など聞こえてこない。ただポタポタとどこからか、水の滴る音がする。
「カーッ」
どこからか、絞り出すような叫びが聞こえてくる。
皆がピクリと身体を動かし息をのむ。

百姓たちは身を屈め、康介は刀を握りなおす。
坊主は叫びの主を確かめるように、見えない叫びの主の方を見る。
娘は蒼い顔して短刀を握りしめ、見えない外を、叫びの声の方を見る。

絞り出すような叫び声がまた聞こえる。ガサガサと草を掻き分ける音。そしてなにかが倒れて、バシャバシャと暴れ転がるような音。
皆がそれぞれに、それぞれの構えと表情で音のなり行きに聞き入っている。
「ぬふーっ」と空気の漏れる息つかいを最後に外は水の滴る音だけになる。

社の空気は微動だにしなくなる。
「な、なんの音でしょうか。」
康介はしゃべらずには居れないと言葉にする。
「河童だ」荷を背負う痩せた百姓が唇だけ動かし呟いた。
「んっ」「なにっ」
坊主と康介が男の方に顔を向ける。
男は先程の坊主の勢いを思いだし、肩をすくめて後ずさる。
坊主は男の気持ちを察して、
「大丈夫だ。す、すまなかった。もう、もう落ち着いています」
坊主は二度三度男に頭を下げて謝る。百姓たちも坊主の静かな言葉に落ち着き、顔を見合わせてのち、年寄りに視線をあつめた。
皆の目を確かめ、年寄りは静かに頷き社の奥に向け指を指した。
「あそこに、同じものが」
社の奥を指差し、そして年寄りは、社に落ちている腕を指差した。そしてまた、指を社の奥へと向けた。
「同じようなものが・・・干からびたものがありますがの。」

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!