河童4

そして康介の血生臭い格好に気づき、何かを思い出したかのように、再びガタガタと震えている。

そして蛙の鳴く闇夜と淡い灯りのたたずむ場所との境を指差して、

「あっいけない。早くそこを閉めてください。お願いです閉めてください。」

押さえ込んでいる力を抜いてしまいそうな程の恐怖の顔で娘がうったえる。
坊主は恐怖の顔に驚き退くと、娘の手で輝きを見せない短刀が握られているをみる。
「ち」微かに血のようなものが、雨で薄められ、短刀の刃先に彩りをつけていた。

康介は短刀と戸口へ、交互に視線を向けながら、這うように戸口に近づきピシャリと閉じる。

娘は視線に気づき、二人の男に警戒させぬよう、ゆっくりと短刀を床に置く。
震える体を起こしながら、その場に膝を揃えて座ろうとしている。

外では蛙が騒いでいる。それに交じり雨音が強さを増している。

雨音と蛙の騒ぎで、三人の間の沈黙はうまい具合に間合いを保っていた。
康介はその間合いを崩すため
「ゴホン」とあからさまな咳払いをして坊主へと目を向ける。

坊主は自分のからだに手を這わせ身体を確かめている。
「私の血かな」そうではないと思っているが、確かめずにはいられない。

「ウホンッ」康介は咳払いをして
「その血は・・・。」娘に言葉を投げる。
震えの収まらない身体の胸元を押さえ娘が頷く。
「わっ、わたくしは・・少々の訳があって、あの、旅の空のしたにあります。おっ、女の身でありますが・・そして今夜・・。」

娘はそこで言葉をとめて、軽く息を吸い込み、静かに胸を上下させた。

娘は気の触れた話をする覚悟を自分にし、今度は深く呼吸をして意を決する。

「あの、き、気の狂った女と思わずに話を聞いてください」
言葉をこぼし出した。

5

娘は道に迷っていた。
すぐにたどり着くであろう村は未だにたどり着けない。
月明かりが頬を照らしたり隠れたり、雨も降ったりやんだり。
月明かりが雲に隠れると、娘は立ち尽くす。どうしたものかと暗闇のなか思案するが、これといって知恵も浮かんでこない。

静かに立っていると、周りには得たいの知れないものが、集まっている気にもなる。

「道があるのだから、いずれ家でも」
君の悪さのなか、立ちすくんでもかいけつできない。歩くしかないと肝に力を要れて、今あるだけの勇気を使い歩を進めて行く。

さほどの山中でもないと思える道は狭く、誰かと横に並べば身体が、道と呼べる幅からはみ出すことになる。

月が隠れると暗闇、月明かりが出ても小雨が舞う。
今日と言う夜は、妙に奇妙な夜だった。

そんな夜に脚が進むこともなく、気ものらず、しっかりと気持ちは焦り、見えるはずはない人影や、聞こえるはずのない、話声が、聞こえた気にもなる。

しかし、もって生まれた性根なのか、どこに持ち合わせているのか、無謀の度胸もあり、知識も人の気丈の扱いも、己の気持ちの手綱もなぜだか持ち合わせてきた。

どこがどうなのか聞かれても答えることはできないが。

妙に奇妙な夜だった。

別に風もなく、草は小雨のなか揺れているように思う。草が擦れる音すらする、狐か狸か野犬か、先程から辺りを着かず離れず付いてきている。気すらする。
「送り狼」なのか。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!