河童27

子どもの感覚は、目と耳の二感覚だけになっていた。
山のなかに自分一人、しかも恐怖のなかに見捨てられた。
頭のなかは真っ白になり皮膚の感覚もなく、血を吸いに来る蚊に対しての無意識攻撃もなくなっていた。が、無邪気な子どもの思考は目の前の恐怖は捻り伏せ、好奇心が身体を支配するため沸き上がる。
「おじさん何を見たんだろう」
子どもは立ち上がり目の前の茂みを掻き分け首を伸ばし、音のする辺りの情報を少しでも得ようと身を乗り出していた。
「あそこに・・・。何かがいるんだ。きっと河童だ」

好奇心は言葉となり唇を動かし、そして身体を動かす。

意識してかしなくてか、幼きからだに沸き上がる好奇心は、茂みから一歩踏み出し、男がしていたように四つん這いになり、音の方へと這い進んでいた。

音は少しずつ大きくなり、気配で複数の何かが動き回っているのがわかる。
頭をもたげ、川から池へ、そして水路の石積へと覗くだけになっていた。
いざ、覗きみるとなると心臓は暴れだし、こめかみが脈打ち、息をするのも忘れて、「ぶはぁー」
苦しさから思いきり息をしてしまう。
それは思いの外大きく辺りに響き、コツコツと音がしていたのもやんでしまう。気付くと辺りは静まり返っている。
すでに遅いことは承知だが口に手を当てて、地面に臥せる。
辺りは静かだった。
息を殺し気配を探るがなにも感じない。
しばらくは動かず息を殺して探るがなにも感じない。
「もう、逃げたかな」
一歩、手足を川へと動かした。
川との境に生い茂る雑草を掻き分けると、川、池、水路、全体を覗けるはず。
「んっ」目玉が見える。
黒い目玉が二つ。
「かお・・。」ひとつの黒い目玉に意識が向くと自分が映っている。

「うっ」
幼き年寄りが思わずまばたきすると、黒一色の目玉も瞬きをする。
その目玉の目蓋は上下にあり、黒い目玉を上と下から挟み込むように動いている。

瞬きが終わった黒い大きな目玉は、幼き年寄りの驚きの顔をうつしている。



自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!