河童5

「送り狼」
ならば行き倒れを待っているのだろうか。
それならば眠りに落ちなければ教われることもないだろう。

娘は押さえ込む恐怖が沸き上がりかけると立ち止まり、辺りへと意識を向けてみる。

感じるのは頬に雨粒のような、霧のような水気。
耳に感じるのは風の音・・・。何かが草を掻き分ける音。

己では感じない風が掻き分けているのか、獣なのか。
定まらない不安を見ようと暗闇に目を凝らすが、見えるのは、ほぼ闇ばかり。
つかの間頬照らす月明かりに、草むらと林の影が人に見える。
ビクビクと歩を進める、何やら後をつけてくる気配がしてならない。

娘はその度に、辺りの気配を探る。

「はて」
娘が前方へ視線を戻すと、見えない闇のなかに何かが見えている。
有るのか無いのか、月明かり。
娘の目にはそれが見てとれた。
「先に何かいる」娘の鼓動は暴れだす。
今まで気づかなかったが、前を何かが歩いている。
「なに・・。」言葉にならない音を唇からこぼし、
「お、お人ですか」消え入る声で尋ね立ち止まって見つめる。
雨はすでに霧雨なのか小雨なのか、蛙たちも静まり風もなく、静まり返った辺りには「足音」かもしれない音がする。
頼みの月は、怯える娘を見てはおれぬとばかりに雲に隠れ、闇の影が娘を包む。

気の迷い目の迷いか、娘は歩きだそうかどうするか。
「それ」は、恐れがみせる影なのか、それとも命ある「なにか」なのか。
「闇のなか立ち止まっても」歩くにも暗すぎるが、闇のなかじっとするのも解決にならず、娘は度胸と共に歩きだそうと、足元に気遣いながら一歩あるきだす。

と、その一歩に驚いたように、
タッタッタッと、今度は後ろに走り寄る気配。
「なに」
ゾワリと身体の毛が逆立ち、身体ごと振りかえる。
見える闇を睨んでいると、今度は前の闇からガサガサ音がする。

娘は息をとめ硬直した身体をよろつかせつつ向きを戻す。
なんとか踏ん張り目を見開き辺りをうかがう。

ここで大きな音でもすれば、娘は失神するだろう。だが、気を失うことはゆるされてない。

雨に濡れている身体は、汗をもかいて衣服を内からも濡らす。

ハッと我を取り戻し、膝にためを作り身構え闇を凝視する。

見渡す限りの闇。
雨の音も蛙のこえも、風の音も聞こえない。
その静けさのなか、それが聞こえてきた。

「ケケッ・・ケケ」
何かの声。鳴き声。
近付いてくる。
静かな闇夜中を、
タッタッタッと、何かが走っている。近付いてくる。
闇のなかの見えない足音を見つめる娘。
足音の主はすぐ側にいる。


近付いてくる足音はゆっくりとなり、いま少しで姿形が闇に浮き上がる距離。

相手があと一歩近づくか、娘が一歩踏み出すか。

瞬間静まるなかで、一歩踏み出したような音がする。

つられて娘も一歩を踏み出している。

一歩に軸が移ったとき、
「どなた・・」
闇に問いかける。

いま一歩摺り足でにじり寄る。
「子ども」
小柄な姿が闇に縁取られている。
「ひと」らしき姿に少しの安心。
そして、山賊の類いかと恐怖。

一呼吸二呼吸と見つめる姿は。
その姿は少し気味悪い。

再び身の毛がよだつ。

混乱。
娘を支配する仲間が増える。

恐怖と混乱。
失われた理性が娘の行動を決める。

その影に近づくために、娘は一歩二歩と、足を踏み出して行く。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!