河童10

再び訪れそうな沈黙は、康介の若さから溢れる好奇心で消されてゆく。
康介は痛む身体を忘れたように。
「すまないが娘さん。今一度訪ねるが、髪の毛は、爪は、着物は、臍などは・・・。」
康介の問いに、娘も思い出そうとしながら。
「先にも申しましたように髪の毛は、指を広げた長さほどのものがまばらに、爪の方はどうだか・・・そちらに落ちている腕を見るとよいかと。身に付けているものは・・・何も着ていないかと。男か女かはどうなのか、臍は、どうでしょうか・・。」
娘は話をやめて下をむく。
「うむ」
康介は腕を組み、急に走る痛みに腕を解く。
坊主は娘の表情から何かを読み取ることを試みる。
表情と身体からでる雰囲気は安堵と緊張と、どちらともとれるたたずまいだけだった。
悪戯か、しかし、腕は今そこにある。作り物か。
娘の存在も床に落ちた腕も、やはり尋常ではない。
坊主自信も、尋常ではないのかと、ふと、苦笑う。

娘を観察すると。
背丈は少し高い方で身体は細身。田畑で働く暮らしの娘には見えない。肌の色はよく陽にやけて濃いが旅のせいか。

言葉使いに座りかたに、身のこなし。
武家の娘か商人の娘か。
あの腕の切り口、短刀の心得があると観ると武家の娘とみえる。
顎の張り具合から、柔らかい食べ物を幼き頃より食しているようす。それから観ると裕福な商人の娘か。

考えることが性に合う坊主。素直がにじむ康介。
康介が思い付いたがごとく、疑問を娘に投げ掛ける。
「娘さん。聴くがこの乱世になぜひとり旅を。人さらいも、そこかしこと居ますが。」
娘はため息をつき。
「みなさまにも人生があるように、私にもこの様な人生がありまして。その、なんと申しますか。」
困る娘の言葉に坊主が
「うむ、それぞれあるだろう」
もう、聞くな康介。喋らずよいぞ娘。と言葉にせず坊主が収めようとする。
一息間が空くが、康介は収まらないのか、
「しかし一人旅。昼間でも何をされるか分かったもんではないが」
収める気はないようだ。
「はい」
頷くむすめ、
「今は天下の決着がつき始めた世のなか、収まるべき場所が失くなり、命もあるのかないのか。生まれ故郷もなくした末の戦人が・・。」
娘は考え込み。
「天下を修めることは関東の田舎となるでしょう。」
坊主が「そうだ」と首をたてにふる。
康介はうつむき、
「まだ解らぬ。と、私は思う」
主張してみる。
坊主は首を横にふり。
「ほぼ決まった。」
坊主が康介の意見は、光の見えぬ思いだとばかりに、
「関東だ」と言いきる。
「どうしようもない。時代は移り行く。諸行無常とな。」


自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!