河童23

「早く起きろ。早く。大変だぞ。おい子ども」

言い終わるやいなや。何かが水路の向こうを走る。
「あれは・・。」
タッタッタッと音のする方に目を向ける。
その音が草むらに隠れる寸前に脚が見える。
「こどもか・・」
男は頭をふる。
見間違いか、・・見間違いだろうと思う。
見えないものを見ようとして、山犬の尻尾でも見たのか。
男は落ち着いて考えてみる。

と、左手側に見間違えたであろう影が現れる。
「うん」
身を向ける。
「今・・見たぞ 。」
確かに何かいた。
「子どものようだが、山に捨てられた子どもか・・。」

山に捨てられた子が食べ物求めて、何かないかと盗みに来たのか。

男が見たものは、こどもにしては手足が長く見えた。
飢えて痩せ細れば、身体も細長く見えるだろう。
しかも夜の暗さ。
男は影が見えた陰へと叫んで聞かせる。
「誰だっ。食べ物ほしけりゃ朝に来い。夜が明けたら来い。何か分けてやる。そんなところに隠れて朝を待つなら、今出てこい。」

君の悪さも感じつつ、見えないものが心を開くであろう食べ物の話で誘ってみた。
返事は何もない。

子どもではないか。
狐か犬か。
「確かあの辺りに」
石をつかみ投げ入れてみる。

石はガサリと音をだし草むらに転げる。
静けさ。
もう一つ掴み投げ入れる。
男の位置からは見えないが、確かに何か、犬より大きな、何か。が、動いた。

「おい、誰だ。早く出てこい。出てこないと何もくれてやらんぞ」

返事はなく、静まり返る。
男も動かずに様子をうかがう。何も変化はない。
「どこへ消えたか・・・。」

よってきたときには気配があれだけあったのだから、それなりの数いるはず。それが逃げたのなら、動く気配もあるはず。
「・・・まだ、いるはず」
男は、頼りない木の棒を確りと握り直す。

なんだか嫌な気がする。
脇の下、背中、額。
汗がで吹き出し始める。
山で育ち山で暮らした男の感が何かを知らせている。
眉から目尻に伝わる汗をゆっくり拭い。草むらに意識を集中。

静寂と沈黙。

そして、消え入りそうな、
「おじさん。」との声。
「わっ」男は驚き、飛び上がり振り向く。
「わーっ、ナンダナンダ・・。」
棒の先を声の方に向ける。
眠気眼で声をかけた幼き年寄りが、驚き目を見開き身を避けていた。


幼き年寄りが目を開けると男が石を投げている。
男は腰が引け何かを警戒して辺りの様子に気を集めているようす。

石を投げ終わり、今一度石をつかみ、草むらに向かい石を投げる。

今度は手応えあり、何かが草むらを移動する。
こどもの目から、男の脚が震えているのが解る。
少々滑稽な姿だ。

幼き年寄りが起き上がろうとしたとき、

「おい、誰だ。早く出てこい。出てこないと何もくれてやらんぞ。」

草むらに叫んでいる。
幼き年よりは、少し怖くなり、起き上がるのをためらった。

男が話しかける闇からはなにも返事なく、静まりかえっている。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!