河童6

「きゃっ」
娘の喉から歯切れのよき悲鳴がとびだす。
大きく出るはずの声は、背後から飛び付き娘の首と胴に巻き付いて来た何かによって遮られた。

娘の首に巻き付いた物は、細くて生臭い腕。
胴の部分には細い脚のようだった。
「ひゃっ」
生臭いそれが巻き付いた瞬間、それは人のようで人でないことに、娘が気づくのは本能的なものだった。

娘がもがき、巻き付いてくる何者かを引き離そうと恐怖のなか暴れまわるが、巻き付くそれはヌルヌルと気持ちも悪く、手で掴んでは離しを繰り返させた。

しかもその恐怖のもとは、もがく分だけ生臭さを娘の鼻へ絡みつけ、抵抗する意志を胃のなかの物と一緒に吐き出させようと、喉元まで引きつり上げてくる。

娘は必死にもがき、濡れた地面で足を滑らせ倒れこんだ。

倒れこんだ娘の首筋には、下敷きになった生き物の、なま温かく生臭い息が、首筋から鼻腔まで流れ込み、娘の恐怖に抵抗する気持ちを容赦なく奪い去る。

からだに巻き付く恐怖より、その臭いから逃れるために、娘は首を伸ばし、立ち上がろうともがく。

が、その前方から、もうひとつの影が近づいてきて娘を更なる恐怖に落としこむ。

素直に恐怖に喰われて意識を失えば、逃れられたはずの恐怖とあらたに対峙して、これ以上の声はない悲鳴をあげる。

一人で旅する程の持って生まれた気丈さが、今この刹那の禍か。勝ち気と気丈が娘の意識をよりハッキリとさせてしまう。

あらたに現れた影は娘に近づき、近づいた気味の悪い生き物を娘が見つめ、わき上がる恐怖と気味の悪さに、渾身の力でもがき暴れる。


近づく恐怖は細長い手足に華奢な胴体。身の丈は十歳か十一歳か、くらいの子供ほどか。
頭は身体に比べて不釣り合いに大きく見え、目玉は丸みが解るがどことなく不気味に蜥蜴を思わせる。
口元は唇薄くほとんどない。歯は無いのかあるのかときに口を動かしているようだが、見えやしない、歯抜けの年よりの様にある。

唇のしたに歯は確認できなく、歯茎らしきものは嘴のようにも見てとれる。

鼻はただの穴な様に。顔も体も肌はヌメリが感じられる。

それは二本足で年老いた者の様にたち、パタパタと躊躇なく近づき、娘のほほに手を伸ばす。

恐怖は歩いて近づき、親しいものを触るがごとく、手を頬にあてる。

この乱世のなか、今この時期の短い旅の途中、使うことが一度もないことを願いつつも、懐に忍ばしている短刀に手を伸ばした。

瞬時のこと、幼き頃より心得のある短刀を使うのは無意識だった。不気味な目は黒目も大きく、目が合えば恐怖は頂きに達し、娘に無我夢中で短刀を使わせていた。

短刀を握りしめてからの記憶は、不気味な生き物が、地面でもがき暴れる姿。身体に巻き付く脚を切りつけ引き剥がし、自分が走り出した瞬間だけだった。

ほとんど道が見えない夜に、どうやって走る事が出来たのか、ふと前を見るとこの社が見え、明かりが漏れているようにも感じ、戸口はどこと手をかけると・・・。

       6

娘が話し終えると、深く息をすい静かに息をはく。

今一度息を吸い込むと下を向きしゃべらず動かず床を見つめていた。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!