河童9

娘はうつむいた。
その生き物を思い出すも何も、先程から頭の中から消えずに困っている。
だからといって言葉に出したくもない。言葉にせず眠ればすべて忘れられる気もしている。が、これが夢でない限り、えん魔さまの膝元まで一緒に向かうことも解っていた。

娘は床に視線を落としたまま頷き、ゆっくり坊主に視線を移した。

「何から話しましょうか。」
娘がつぶやく。
坊主は考え込み、
「ならば、背格好から」
言い終わると、娘に向かい、話し始めろと頷いてみせる。

淡々と話し始める。
話を誇張しないよう。
自分のみたものを、経験したことを話し続けた。

落ち着いて話しているつもりでも、眉間は皺より、手は震え。言葉も震えていた。
細かなその震えが、坊主と康介に娘の恐怖を伝えていた。

「・・私が覚えているは・・。」
一息吸い込み。
「目の前にたった生き物の有り様を話しましょう。
それは先程も言いましたように、子供のような背格好で、姿勢も悪く、肌は滑りがありました。見た目にもそうですが、私のからだに巻き付いた腕も足も、ぬるぬると滑りがありましたもので・・。」
沈黙し、息を吸う。

「手足は身体に比べて長く、頭は身体に比べて不釣り合いに大きく、口は・・唇は無くて、口の中にも歯のようなものは見当たらず。・・歯茎は・・嘴のようでした。鼻は低く、鼻の穴だけとも云えるような。目は黒く大きくも感じます。が、蜥蜴のような蛇のような。」

娘は落ち着いたのか、静かに呼吸をしながら言葉を続けた。

「まぶたは上も下も動いていたような。上下の動く瞼をみて、・・これは人ではないと。解り合えることはないだろうと思いました。他はそうですね。
髪の毛ですが、まばらに、髷を切られたような、頭の上に髪の毛はなく、耳の上に毛があり、頭の上を囲むように、まばらに、指を広げたほどの長さの髪の毛が・・・。今、耳と云いましたが、耳の辺りと云うことでして、思い返せば耳は無かったように・・・。」

娘がため息をと共に下を向き、坊主と康介は目を交わし、あの、腕へと目を向ける。

話しはなかなか信じられなく、しかし、小さな腕は、今。この部屋に落ちている。
現実がここにあるかぎり、信じるしかない話であった。

康介は真実の話しとして、考えを巡らせる。
坊主は「手の込んだ悪戯か」雨の夜に手の込んだ悪戯をする娘がいるはずもなかろうし、あの腕は目の前にある。
現実だけを観ると悪戯は無さそうだった。

「うむ。」坊主は無意識にうなずいていた。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!