河童26

このまま歩を進めれば身の丈ほどの深さがある川が見えてくる。
幅は飛び越えるには広すぎる幅、そして、それよりは細い水路。
水は雨不足のなか、底の方にチョロチョロと流れるだけだ。
今覗けば、精魂込めた水路を傷つける不届きものの正体がわかるが、もし、相手が腕っぷしに頼れば、こちらに勝ち目はあるだろうか。
腕っぷし勝負になれば、子どものいるこちらは不利になる。
暗いなかに石積みを崩す音が聞こえ続ける。
気配から相手は複数とわかる。
「おい、子ども。俺は正体を確かめにいく、覗いてみるだけだが争いになるかもしれん。お前はどこかに隠れていろ。」
幼き年よりは頷き、キョロキョロ周りを探り、草むらへと身を隠す。
草むらから覗きみると、男は四つん這いで石積へと近づいて行く。
もう少しで見えるだろう場所で動きを止め、少しずつ頭をあげて川底を覗きこもうとしている。
頭を上げるだけでは見えないのか、膝で立ち上がった。
膝だちで首まで伸ばして覗いた身体は、ビクッと動いたのちはピクリとも動かない。
「あれ」幼き年よりが思うと、稲妻の速さでその場にふせた。
動かない。
見つからないためにか、身体を伏せたまま後ろ向きに這い動く。
必死さが伝わってくる。
途中で向きを変え立ち上がろうとするが、腰が抜けているのかうまく立ち上がれずにいる。立ち上がり走り出そうとするが「あっ、」脚がもつれて声を出した。
男は倒れたまま川の方へ視線を向けて、すぐさま幼き年よりが身を隠す草むらに目を向けたのち、全力を出し走りだす。
その方向は自分の村だった。
「あれ。」
幼き年よりは何が起こったのか分からぬまま、走り去る男の後ろ姿を見送った。その姿が見えなくなったその時、自分が、この場に一人、見捨てられたのを理解した。
男の姿も走り去る足音も消え。今この場に自分は一人残されていた。
いや、石を投げ、石がぶつかる音がする。
音に近づき見れば、そこには何かがいるのだろうが、山育ちの男が、腰を抜かして逃げるほどだ。
味方で無いのは確かだった。

子どもは一人、石がぶつかり、気配が立ちこむ辺りを、眺める以外、何も出来なかった。

男は子どもが隠れているであろう草むらへと目を向ける。
「済まない子ども、そこに隠れていろ。すぐに助けに来るから。ソコにじっとしていてくれ。隠れていてくれ。ゆるせ子ども」
男は小声で呟き、村がある方へと目を向け、一目散に走り出した。
「すまない、子ども。・・すまない。」
男は走り続けながら、お経を唱えるように、何度も言葉を漏らした。
走りながら自分が見たものを思い返す。首筋に鳥肌が立ち、身体からちからが抜けそうだった。
暗い夜道、自分の走る足音が影法師となり、自分を追いかけてくる。
恐怖と不気味は頂点となり、走る身体に触れる木々や草が、自分を追いかける影法師を味方する。
影法師と交代に、見えない子どもの姿が、唇を動かす。
「すまない・・・子ども。」
何度も唇からこぼれる言葉は、子どもを置き去りにした「恥じ」を感じ、その「恥じ」にも追いかけられていた。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!