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プリンのアイドル「たりこ🍮」の物語

 おはようございます、こんにちは、こんばんは。『HAKUNA』という配信アプリで配信をしている「たり📚✨」です。

 プリンのアイドルである「たりこ🍮」の物語を書いたので、ぜひ読んでみてください。

 「たりこ🍮」とは配信中のノリで生まれたキャラクターです。配信中の僕の女性的な(オネエ的な?)リアクションから原型が生まれ、そこにノリでさまざまな設定を足していった結果、「プリンのアイドル プリンセスたりこ🍮」が誕生しました。

 ありがたいことに多くのリスナーさんにたりこを愛していただき、一時期は僕よりもたりこの方が人気なんじゃないかと思ったくらいです。なんだかんだ、僕もたりこを演じるのは楽しく、曲を3曲(『プリンのお姫様』『わたしたりこ』『プリンな世界』)作ってしまいました。

 今回は曲ではなく、たりこの物語を書きました。内容は、たりこがアイドルになる前のお話です。

 たりこはなぜプリンのアイドルになったのか。そして、彼女が抱くアイドルへの想いとは……。

 たりこに出会ってくれた、たりこで笑顔になってくれた、たりこを愛してくれたすべてのリスナーさんにこの物語が届くことを願っています。

 それでは、どうぞ。


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 今日は、私にとって大事な日。

 朝、アラームが鳴る前に目が覚める。窓から差し込む光が私を起こしてくれた。朝に日光を浴びるのは体にいいと聞いたことがある。たしかに、うるさいアラームに起こされる朝よりもだいぶ気持ちがいい。少し眩しいけれど。

 専門学校を卒業し、すぐに一人暮らしを始めた。間取りは1LDK。学校を卒業したばかりの若者にとって、1LDKは少し贅沢かもしれない。だけど、私は家賃が高くなってもいいから、あの部屋が欲しかった。

 窓を開けて、風を入れる。今日はいい天気だ。
 空気を吸い込むと、すっきりした気持ちになる。

 外に見えるのは、母親と手を繋いでいる小さな女の子。彼女らの声に耳を澄ます。一緒に口笛を吹いているようだ。どぎれとぎれの旋律だけど、楽しそうで癒される。

 私はキッチンに立った。
 高校時代から愛用しているiphoneSEの電源を入れる。小さくてお気に入り。
 ミュージックのアプリをタップし、曲を流す。

 私の大好きなアイドルの、夏をテーマにした曲だ。爽やかなアップテンポのリズムに自分の調子を乗せる。

 食パンをトースターでこんがりと焼く。焼き終わったらさっとバターを塗り、ほんの少しだけ蜂蜜を垂らす。

 目玉焼きはやや半熟に。醤油を少し垂らして、ブラックペッパーをさっとふる。

 私は、おいしいご飯を食べて喜んだ自分の顔を想像する。それだけで、面倒くさい料理もなんだか楽しい。

 ゆっくりと食事を終え、皿を洗う。
 濡れた手を拭き、冷蔵庫を開け、プリンを見つめた。

 二年前、雨が降っていたあの日。
 「苦しいことばかりじゃないよ」と、私はあの人からプリンを手渡された。

 その日から、私はお守りのようにプリンを冷蔵庫に入れている。

 パジャマから運動着に着替え、奥の部屋の扉を開けた。

 体全身が映る大きな鏡の前に立つ。バイトのお金をこつこつ貯めて買った、あこがれのダンス用の鏡。ずっとずっと欲しかった、ダンスをするためだけの部屋。

 踊るのは、大好きなアイドルの有名な夏曲。

 鏡で自分の姿を確認しながら踊る。何度も何度も踊ってきたこの曲の振り付けはもう、体中に染み付いている。

 目を閉じれば、あっという間にここはステージの上。

 ペンライトを持った大勢の観客たち。
 うねるような熱気に、私の名を呼ぶファンの声。
 この部屋は私だけの特別なステージ。
 目を閉じればいつだって、私は誰かのアイドルになれる。

 シャワーで軽く汗を流し、ドライヤーで髪を乾かしたあと、服を着替えた。黄色とピンク色がかわいいお気に入りの服だ。

 アイロンで毛先を少し内側に巻き、前髪を整える。軽く化粧を施して、私は私をきれいにしてあげる。「かわいくなあれ」とおまじないをかけながら。

 冷蔵庫からプリンを取り出す。
 踊ったあとに食べるプリンが私は大好きだ。
 疲れた体を、甘いプリンが癒してくれるから。

 プリンを食べるためだけに買った小柄な木のスプーン。それでプリンの表面をそっと掬う。スプーンの上でぷるぷると揺れているそれを、丁寧に口に運んだ。

 あぁ、おいしい。

 やさしい卵の風味と、ほろ苦いカラメルソース。
 凝縮された濃厚な甘さと、やわらかい口溶け。
 頑固みたいに甘いのに、頬がほころぶほどやさしい味。

 ただただ「おいしい」だけを感じられるこの瞬間。日常の中に幸せがあるということを、私はもう知っている。

 いつからだろう、「夢が叶わないと幸せになれない」と感じるようになったのは。夢を叶えられない自分に価値がないと思うようになったのは。

 それでも私は今、夢を叶えたいと生きている。

※※※

 小さい頃からずっと、アイドルになりたかった。

 何気なくテレビで流れていた音楽番組。
 そこに映っていたのが、AKB48だった。

 かわいくて、キラキラしていて、楽しそうに踊っていて。彼女たちのそんな姿に私は釘付けになった。胸のワクワクが止まらなかった。

 学校で友達と喧嘩したときも、テストの点数が低いときも、両親から叱られたときも、彼女たちの歌って踊る姿を見たら、私の悩みなんて簡単に吹き飛んでいった。

 メンバーのひとりが言った。「努力は必ず報われる」と。

 運動音痴の私はダンスが苦手で、歌も自信がなかった。だけど、努力をすれば少しでも彼女たちに近づけるのかもしれない。その言葉が私に勇気をくれた。

 その結果、たくさん練習したら、踊れるようになった。歌うのが好きになった。

 私は小学校の卒業文集にある「将来の夢」の欄に「アイドル」と書いた。

 中学生になり、初めてオーディションを受けに行った。結果は不合格。

 めげずに何度も受け続けた。彼女たちみたいに、AKB48みたいになりたくて、何度も何度も受けた。しかし、一度も受かることなく、気づけば私は高校を卒業していた。

 この頃からだったか。「夢を叶えないと不幸だ」と思うようになったのは。

 私が落ちる中、受かってデビューしていく女の子たち。どんどん増えていく新しいアイドル。夢を叶えた彼女たちが羨ましくて、高校を卒業する年齢になってもアイドルになるという夢を叶えられていない自分を恥じた。

 努力が足りない?
 こんなに頑張っているのに?
 努力は必ず報われるんじゃないの?
 彼女たちと私はいったい何が違うの?

 私は高校を卒業し、専門学校に入学した。アイドルになりたい。その夢を胸の奥に隠して。つらい現実から逃げたくて。

 しかし、隠した想いは隠せば隠すほど膨らんでいった。専門学校を卒業する前、私は一度だけオーディションを受けた。

 結果は「不合格」。

 結果発表のその日は雨だった。急に降り出した雨だった。折り畳み傘を忘れた私は、濡れながら家に帰った。

 学校で不合格のメールを見てから、私は絶望していた。服やカバンがびしょ濡れになっていることとか、はやく家に帰らないと風邪をひいてしまうとか、すべてがどうでもよかった。

 だって、アイドルになれなかったから。
 何回挑戦しても夢は叶わなかったから。
 アイドルになるという、私の望んだ人生が終わってしまったから。

 専門学校の同級生たちはすでに就職先が決まっている。アイドルを諦めきれなかった私は、ここから先の道が決まっていない。

 人生をかけたオーディションだった。
 ダンスも歌もたくさんたくさん練習した。
 それでもダメだった。

 アイドルになれなかった私の人生には、もう価値がない。ここからの人生は、生きていようが死んでいようが、もはやどうでもいい。

 アイドルになれない私は一生しあわせになんかなれない。

「濡れると……風邪ひくよ」

 そのとき、傘を刺してくれたのが、あの人だった。

 不意な優しさに、私は思わず泣いた。
 雨で濡れた頬に、ぼろぼろと涙は流れた。
 あの人は何も言わず、ただただ傘を刺し続けてくれていた。

 私が泣き止むと、あの人は手に持っていたコンビニ袋を私に手渡した。

「苦しいことばかりじゃないよ。人生は」

 そこに入っていたのが、プリンだった。

 家に帰るとすぐに、あの人からもらったプリンを食べた。

 オーディションに落ちて、アイドルになれないと悟り、絶望して。心はこんなにも苦しいのに、そのプリンは憎たらしいほど甘くて、おいしかった。

 私はもう一度プリンを掬う。
 黄色のプリンに焦茶色のカラメルがついていた。

 私は小さい頃、プリンについているこのカラメルが苦手だった。なんで甘い味にわざわざ苦い味をつけるの、と。

 プリンを口に運ぶ。
 カラメルはやっぱり少し苦い。
 でも、不思議。
 さっき食べたときよりも、プリンは甘く感じる。
 なぜだろう。
 カラメルと一緒に食べたほうが甘くて、すごくおいしい。

 もしかしたら、と私は思う。
 苦味は甘さをより引き立たせるためにあるのかもしれない、と。

 胸に熱いものが込み上げ、目から涙が溢れ出た。

 アイドルになるという夢が叶わなくて、つらいのに。心はとてもつらいはずなのに。

 私は今、プリンがおいしくて、しあわせだって思ってる。こんなにおいしいものを食べられて、しあわせだって心と体が喜んでいる。

 ずっと、夢を叶えた先に幸福があるのだと思っていた。でも違った。私の日常の中に、すぐそばにずっと幸福はあったのだ。

 カラメルは苦くて、だから、プリンはより甘くなる。

 人生も同じなのかもしれない。

 つらいことがあるから、嬉しいことはより嬉しくなっていく。

 オーディションに落ちたから、あの人の優しさに触れられたように。

 アイドルになれなくて絶望していたから、プリンのおいしさに涙を流したように。

※※※

 私は食べ終えたプリンを片付けて、支度をする。

 準備は完了。
 カバンの中にひとつ、お守り代わりにプリンを入れる。

 今日は、私にとって大事な日。

 また、夢は叶わないかもしれない。
 夢が叶う保証なんて、どこにもない。

 でも、私は大丈夫。
 プリンがいつだってあの日のことを思い出させ、教えてくれるから。

 私は靴を履き、玄関のドアノブに手をかけた。

 夢が叶わなくたって日常は続いていく。その日常を大切にできたなら、私はなんだってできるような気がする。

 夢を追いかけ、叶わず、たとえ傷ついたとしても大丈夫。日常が、そして日常の中にあるおいしいプリンが、私を癒してくれるから。

 つらいことも嬉しいことも全部、私の人生をおいしくする、大切なものだから。

 たまにつらさに飲み込まれて、生きることが嫌になってしまうこともあるけれど。神様、私に「つらい」と「嬉しい」の両方をくれてありがとう。

 夢が叶わないことはきっと不幸ではない。
 きっとしあわせはいつだって日常の中に転がっている。

 だから、私は今でも夢を追いかけていられる。

 扉を開け、私は一歩踏み出した。
 夢に近づく、日常に支えられた力強い一歩を。


たりこ🍮 |2nd Single『わたしたりこ』

そうさ わたしたりこだよ
わたしたりこよ
もうちょっと もうちょっと
プリンを食べさせておくれ

苦しいことばかりじゃないと
あの人は教えてくれたよ
その時プリンを渡されて
その日からはプリンばかり食べているよ

甘いだけじゃないプリンの味のさ
秘密はカラメルにあって
それに気づいた わたしはたりこ

そうさ わたしたりこだよ
わたしたりこよ
もうちょっと もうちょっと
プリンが食べたいのよ

Ah わたしたりこだよ
わたしたりこよ
もうちょっと もうちょっと
プリンを食べさせておくれ

幸せはいつだって
プリンの中にあるよ
わたしたりこだよ


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 最後まで読んでくださりありがとうございました。

 このたりこ物語は、青山美智子さんの『いつもの木曜日』という本に影響を受け、参考にしながら書きました。めちゃくちゃ素敵な本なので、よかったら読んでみてください。


 次は、ここであまり書くことができなかった「あの人」にまつわるお話が書けたらいいなあ、と思っています。あの人って誰のことでしょうかね?ふふふ

 このたりこ物語の感想をよかったら配信中に聞かせてくれたら嬉しいです。たりこの曲のリクエストも大歓迎!

 ぜひ、これからも「たり📚✨」と「たりこ🍮」と一緒に配信を楽しんでいきましょう!

↓↓たりの実体験をもとにした配信物語も書いてます。こちらもよろしくね♡


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