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小説|ココロのクサリ③

2人は再び、花実華紅薇(はなみかぐら)と会うことになった。

まるで実家に帰るような足取りで、慣れた雰囲気の慎吾は奈緒子を連れて、花見のカウンセリングルームに入った。

「あら♡お久しぶりですね!奈緒子さん」
「お久しぶりです。」
と奈緒子は一礼した。

「こちらへお掛けくださいね。」
花実の誘導に従い、すでにお茶が用意してある席に2人は座った。

「久しぶりにお2人でお越しくださって、とっても嬉しいです。慎吾さんから、少しだけあれからの事を聞いてまして、ご両親の顔合わせなども上手くことが運んだようですね!私も少しはお役に立てたかと嬉しいです。本当に良かったですね。」
「はい、ありがとうございます。両親もとても喜んでました。」
と奈緒子は笑顔で応えた。

「それで今日はどんな事を視ましょうか」

「今日は、結婚式の二次会のことを聞きたくて来ました。」と、真剣な眼差しで慎吾が言った。

「わかりました。結婚式の二次会のことですね。では、もう一度、お名前だけこちらに書いていただいてもよろしいでしょうか」

と、紙とペンをそれぞれ渡された。
そして、記入した名前を擦りながら、花実は目を瞑りモゴモゴと何やら呟やいていた。
しばらくすると、花実は目を開けて話し始めた。

「そうですね。。。」
慎吾は花実がいつもと少し様子が違うようにみえた。そしてそんな慎吾の不安そうな顔を遮るように、花実は話し始めた。
「まず、慎吾さんは二次会をしたいと思ってるのですか?」

率直な質問に、慎吾は戸惑った。
奈緒子は思わず慎吾の顔をみて、どう答えるか様子を伺った。
「僕が望むというよりは、彼女がとても楽しみにしていて。なので、そんな彼女の期待にこたえたいなという気持ちから二次会はしたいと思ってます。」
慎吾は思った以上に素直に話せた自分自身に少し驚いた。

「では奈緒子さんに聞きます。どんな二次会をしたいですか?」

「どんなって、、、私あんまり深く考えなくて、普通に楽しくドレス着て友達同士で騒げたら良いかなぁって思ってただけなんです💦 それで、どんな服着る?って慎吾に聞いたら、花実さんの所に行くっていうから、今日はついて来たんです。」
と、奈緒子は正直な気持ちを花実に伝えた。

しばらく沈黙が続いた。

「今回はお2人に少し厳しいことをお伝えするようで辛いのですが、"結婚"についてもう少し考えた方が良いかもしれないです。
もちろん、ご先祖さまは応援しています。
ですが、なぜこの様に厳しい言葉をお伝えしなければならないかと言いますと、

"2人で歩む覚悟があれば応援する"

というメッセージだったからです。
結婚式などはあくまでも形式上のこと。実際には、今後の人生を2人がどう歩みたいのかが大切です。」

そして、花実は続けて2人それぞれに話しかけるように喋り始めた。

「慎吾さん、あなたはとても思いやりのある、素敵な男性です。ただ、少々慎重になりすぎるところがあるのではないのですか?」

「そして奈緒子さん、あなたは本当に素直で可愛らしい女性です。これから結婚後はしばらく彼と2人の生活になります。あなたはきちんとその覚悟をしていますか?」

2人は何も言葉が出てこなかった。
奈緒子はここに来たことを後悔した。今すぐこの場から帰りたい気持ちでいっぱいだった。

すると、慎吾がおもむろに話し始めた。
「花実さん、あの僕、実はもしかしたら県外に転勤になるかもしれないんです。まだ決まったわけではないのですが、そうなったら奈緒子も一緒に来てもらった方が良いのでしょうか?もしくはこのまましばらくは別々で生活した方が良いのでしょうか?」

驚いて、思わず奈緒子は反応した。
「え!!!?聞いてないよ!そんな大事な話し、なんで今ここで聞くの?!」
「いや、まだ決まったわけじゃないし、結婚式も終わってないのに、これ以上奈緒子に色々考えさせたら悪いなと思って、、、」
「だからって、ここで先に聞くことないじゃん!それに、私と別々で住むって何?どういう事?」
「いや、そーじゃなくて、奈緒子だって仕事があるだろ?転勤といってもずっとそこにいる訳じゃないんだし、そんな俺だけの事情で仕事をやめて欲しいとも言えないし。どうしたらいいかわからなかったんだよ!」

奈緒子が次に口を開こうとした時、
花実が間に入るように、話を遮った。

「慎吾さん、転勤になるかもしれないのですね。」

慎吾はモヤモヤする気持ちを抑えながら応えた。
「は、はい。そうなんです。」

「そうですか。それはまだ奈緒子さんとお話されてなかったんですね。
それならば、わたくしから転勤についてのアドバイスはまだ早いのかもしれません。
まずは今日お伝えしたことを含めて、お2人で色々と話し合った方が良いのではないでしょうか。」

「確かに、、、そうですね。なんか、すみません。」

「いいえ、私はいつもあなた方お2人を応援しておりますよ(^-^)お2人で話合いをした上で、聞きたいことがありましたら、またいつでもお越しくださればと思います。」

そんなやりとりの末、
今回の霊視は終了となった。

2人は花実のカウンセリングルームをあとにした。

2人は一緒に帰ったが、カウンセリングルームでの時とは一転して、帰り道の道中はどちらからとも喋ることなく、分かれ道で「じゃあね」とだけ、声をかけ合っただけだった。

その後しばらく、2人はメールだけのやり取りが続いた。

その間慎吾は、花実から言われた言葉がずっと忘れられなかった。
結婚に関して、どちらかと言うと彼女に押されて今まで話が進んでいたが、実際自分の気持ちはどうだったんだろうか、いま一度自分と向き合った方がいい気がした。

慎吾は自分の事はよく分かっていた。とても几帳面で慎重に事を進めたい性格。そして失敗することがとても嫌いだった。
だけど奈緒子といると、なかなか行動出来ない自分の性格を変えてくれるようで、慎吾はとても新鮮で嬉しかった。

そして慎吾は奈緒子の素直で天真爛漫な明るい性格がとても好きだった。その反面、奈緒子のコロコロと気が変わるような発言や、何でも気軽に行動させようとしてくる所には少しだけイラく時もあった。

慎吾には今父親しかいないが、男同士でもあまり話すことはなかった。母が生きてる間は母と話すことが多かった為なのか、父との心の距離は遠かった。
今回の結婚に関しても、花実さんがいなかったら、正直どう話を進めていいのか全く分からなかったし、そのことを聞けるほど父親には心が開けずにいた。

一方の奈緒子は、あの日以来慎吾に対する不信感が強くなってしまっていた。

花実からまさかあんな事を言われるなんて思ってもいなかった。
"覚悟"なんて今まで生きてて考えたこともなかったし、2人での生活も始めちゃえばなんとかなると思っていたからだ。

奈緒子は慎吾の雰囲気や見た目が大好きだった。ただ時々何を考えてるのか全く分からなかった。
霊能者に言われた通りにしようとしたり、突然転勤の話をしたり、訳がわからなかった。
むしろ、そんな行動をする慎吾は結婚をあまり望んでないのかなと感じてしまいそうだった。

奈緒子は友達にも親にも相談できずにいた。結婚が決まったのに、こんな相談したらカッコ悪いし、また時間が経てばなんとかなるだろうと思い、とにかく時間だけが過ぎるのを待っていた。そして"大丈夫、大丈夫!"と自分に必死に言い聞かせる日々を過ごした。

そんなある日、慎吾から
「今日、会えない?」
とメッセージがきた。

「今日は仕事が遅くなりそうだから無理かも」
奈緒子はまだ心の整理がつかずにいたのもあり、慎吾にはまだ会いたくなかった。

「なら明日は?」
と、続けて慎吾からメッセージがきた。

慎吾からの返信は早く、いつもより少し喰い気味になっている彼に、奈緒子は驚いた反面、気持ちが少し揺れ、思わずOKの返事をしてしまった。

「いいよ」

……続く



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