『オッペンハイマー』感想

2024/3/29
“Oppenheimer"
directed by Ch. Nolan
(インスタから転載)

『オッペンハイマー』

とても良かったと思う。
日本の惨状についても最低限の描写というか、アメリカの認識を考えればハリウッド作品としては最大の描写をしたのでは。

今だって国内のアジア人に対する扱いがアカデミー賞の時のRDJr. みたいな感じだし、戦時中敵対していた極東のアジア人なんかに大した共感はないだろうし(当時も理性的な道徳心について語られてはいたようだが感情が勝るだろう、あるいは敵が遠すぎてろくに感情すらなかった?)と考えれば、ノーランはちゃんと負の面を描こうとしていたと思う、日本人が納得するかはともかく。
(バーベンハイマーの件は何かアクションを起こすべきだったと思ってますけどね)

投下地について「京都は避けたよ〜新婚旅行で行って良い街だったから〜」という軍人の台詞がグロテスクですごいリアルな感覚に思えた。
とりあえず数字の上ではあるが、爆撃そのものの犠牲者、負傷が原因の犠牲者、被曝による犠牲者の数と、それがほぼ民間人であることははっきり述べられていた。
結局あれはアメリカの映画で彼らにあまり期待していなかったので私の評価ハードルが低いかもしれない。


登場人物も情報もMAXで詰め込まれてるから事前に軽く人物や歴史を知っといた方が良いかも。入れられるだけ情報をぶち込んだ感(でも必要十分だと思う)。

DUNEが余白の美ならこちらはとにかく詳細に作られていて、ノーラン作品らしく映像も音響も作り込まれているので情報処理に疲れるかもしれない。というか疲れたのですぐに2回目を観る元気はない。


オッピーの頑固さや国家機密に関わってるのに共産党員の愛人に会いに抜け出すとかバカか?と思ったけど、破壊装置を作る(チームを率いていた)のも不完全な人間でみんなと同じようにままならんよ、ということなのかな。
トリニティが成功した後、集会での歓呼が酷く恐ろしい音に聞こえる(爆弾を運ぶ戦闘機?)&被爆の幻覚を見る演出、彼はそれが何か理解しているが故の葛藤っぽくて良かったと思う。

赤狩りの尋問の下りでキティが落ち着いて言い返してて良かった。今の時代に赤狩りについて描かれるのは良いことだと思う。

執念深いストローズが知りたがっていたオッペンハイマーとアインシュタインとの会話が「ストローズよりもっと重要な内容」だったのは滑稽。
「彼らは、彼らのために君を称賛するだろう」
科学を利用するのは科学者ではなく、科学者に開発させるのも発明を利用するのも権力者で、科学者すら駒の一つでしかない。

科学者たちも人間で、権力や名声を欲したり同僚を貶める者もいるけど、理性的・道徳的であろうと努める人々がいるのは救いかもしれない。ラミの役ちょっとだけだったけど良かった。

冒頭でオッペンハイマーが水溜りの上の波紋を眺めるシーン、観終わって振り返るとくるものがある…。
私は興味あって多少歴史は知っていたから分かる描写があったが「観客を信頼しすぎるのはこの手の作品では少し危険」という感想を見かけて確かにそれはあるなと思った。

メメントといいインセプションといい「解決策が更なる苦難を生む」みたいなのはノーランの業なのか…。

そういえばアインシュタインと一緒にゲーデルが出てきた時に「不完全性定理!!」とテンションが上がった。

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