【書評&雑記】『中国国共内戦と朝鮮人部隊の活躍』


まず初めに断っておきたいのは、今回紹介する書籍は、極めて政治色が強いということだ。

本書は「平壌・科学百科事典出版社」から2008年に出版された『中国東北解放戦争を支援して』(原題の日本語訳)を翻訳したものである。(p7)

出版社(※1)の名称に「平壌」という地名が含まれている点から分かるように、国共内戦期における北朝鮮政府の動きについて、本書は終始賛同的な態度をとる。

それが察せられるような例をあげると、本書付録の年表は、全103項目のうち42項目の主語が「金日成主席」(または「金日成主席」という文字を含む)である。(※2)

たとえば、このような感じである。

一九四七年初  金日成主席、東北民主連軍の(中略)対策を立てる
一九四七年初  金日成主席、我が国の(中略)措置を講じる
二月      金日成主席、我が国の(中略)措置を講じる
二月一六日   金日成主席、(中略)高く評価

同書、p230。

このことから「政治色の強さ」を感じ、純粋な歴史学的な書籍ではないとして、読む意義を見出せない方も存在するかもしれない。

しかし、かの国の体制から考えると、本書の内容が政府見解を大きく逸脱したものであるとは考えにくい。
そのため、「北朝鮮における公式的な国共内戦像」を知るという意味でも、一読に値すると思われる。

また、本書には、著者の情報が全く記載されていない。
これには少し動揺したものの、かの国の体制から考えると、日本の「歴史修正主義」界隈を構成しているようなカジュアルな人物ではなく、その分野のオーソリティが著者である可能性が高い。
そのため、記載されている内容も、全く無根拠なものではなく、一定の信頼がおけるものと思われる。

ようするに、「逸脱」的な言説(トンデモ)が許容されない権威主義的な体制で書かれたことは、逆に本書の価値を高めているともいえる。

期しくも、北朝鮮という地名が、「岩波新書」「国産野菜」のように一定以上の品質を保証するブランドとして機能しているように感じる。

※1 おそらく、北朝鮮の平壌に本社を置く出版社だと思われるが、ざっとネットで調べた程度では分からなかった。

※2 項目数は、本記事の筆者が計数したもの。厳格な再確認などは行っていないため、あくまでも目安的な数値としてとらえて頂きたい。

北朝鮮による大規模な国家的支援

本書を読んで驚かされたのは、国共内戦における北朝鮮の支援の大きさである。
中共の内戦勝利に、ソ連の援助による影響を指摘する論者は多い。
しかし、本書を読めば、ソ連よりも北朝鮮がはるかに大きな影響を与えていたのではないかという気持ちになる。

衣類や武器弾薬の提供だけでなく、国内に中共軍を駐留させたり、負傷兵の治療を行うなど、国家ぐるみで支援を行っていたのだ。

提供された物資の例を挙げると、以下のようなものがある。

・衣類(軍服、軍靴など)
・医薬品
・「10万名を武装しうる武器装備」(p75)
・「黄色爆薬」(p78)※


トーチカ破壊などで活躍したという。
中国映画でよくみかける梱包爆薬のことだろうか。
董存瑞が自爆したさいの爆薬も、北朝鮮製だったのかもしれない。

また、国民党が侵入できない北朝鮮国内にて、以下のような支援を行っていた。

・反乱を起こし、中共軍への合流を希望する国民党1個師団をかくまう(p79-80)
・中共軍の負傷兵を治療(p72)
・中共の「戦略物資」の保管(p72)

また、驚くべきことは、北朝鮮軍の大規模な軍事介入である。

彼らは、北朝鮮軍の「指揮員」を送り込むことで、中国国内の朝鮮族居住地を「革命根拠地」に変えた。
これらの根拠地では師団レベルの軍隊が建設され、国民党軍との戦いに投入されたという。

また、日本軍から接収した装備で砲兵連隊を作り、これを派兵(p77)するような支援も行っている。

これらの活動が国際法的にどのような裏付けを持っていたのかは不明だが、「参戦」といっても過言ではないような支援を行っていたのは驚愕であった。

一方、ソ連を見てみると、中国政府との外交的取り決めにより、国家としては中共を支援しない方針だったはずだ。
ソ連軍が日本軍兵器が譲渡した事例もあるようだが、あくまでも現場部隊の判断に依存していたようである。

北朝鮮による国家的な支援とは、質的にも量的にも、全く水準の異なるものだったのではないだろうか。

多種多様(雑多?)な国民党勢力

内戦期の国民党軍と言えば、アメリカの支援を受けてつくられた米式装備の精鋭部隊が連想されるだろう。

しかし、そればかりが国民党ではない。
本書によれば、国民党勢力は極めて多様性に富んだ構成となっている。

おもに日本軍残党で構成される「鉄石部隊」や、「悪質地主三兄弟」、金日成配下の朝鮮独立パルチザンだった者、元満州馬賊(謝文東など)、「女性が集団で男性を拉致する種族」、「略奪で暮らす常習土匪集団」などなど、まるでフィクションのような強烈なメンツが大集結しているのだ。

しかも、彼らは意外にも重装備で、重機関銃や大砲を保有している事例も多い。(※)
また、兵力は数百名規模が多いようだ。

ここまで多種多様な勢力を味方につけて、国民党は一体何をしようとしていたのだろうか。

本書を読むと、国民党はこれら各種勢力を「使い捨ての鉄砲玉」として運用していただけの印象を受ける。
中共の「土地改革」「根拠地の建設」のように味方を増やそうという考えは全くなく、その時々の都合で利用し、使ったら必ず捨てているような感じだ。

そのためか、諸勢力は各地域ごとに孤立して活動しており、相互に連携し合いながら動いているようには見えない。

結局のところ、これら雑多な諸勢力は、共産軍によって各個に撃破されてしまったようである。


しかし、装備が良いとは言っても、武器を多数保有しているだけで、
一般の軍隊にみられるような通信設備や輜重部隊、医療機関などは全く保有していなかったのではないだろうか。

その場合、本質的な意味での戦闘能力は極めて低かったかもしれない。

また、彼らの保有する大量の武器は、関東軍・満軍からソ連軍が接収したものではないだろうか。
この場合、ソ連軍から国民党諸勢力へと合法的に提供され、彼らが戦闘で共産軍に撃破されることで、中共へと武器が流れていった可能性が指摘できる。

国民党諸勢力が、共産党軍への武器供給の「ロンダリング」の役割を果たしていたかもしれないのだ。

毛沢東は国民党のことを「共産軍の補給大隊長」と呼んだようだが、まさにその通りであったのかもしれない。


中朝関係の深さ

本書を読んで感じたのは、中朝関係の深さである。

中国には数多くの朝鮮族が住んでいる。
本書でも、延辺朝鮮族自治州(間島)を「革命根拠地」に変えるための戦いに、丸々1章分を割いている。

また、日中戦争期、八路軍がもつ唯一の砲兵連隊を率いていたのは、朝鮮人(武亭)であった。

中朝は、日本人が思っているよりも、はるかに深く結びついている。
こういった背景が、朝鮮戦争の「人民志願軍」参戦や、今日の中朝関係に影響を与えている可能性は否定できない。












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