見出し画像

臭いの在処

ボクが小学校に通い始めたばかりのある朝、いつものように目覚まし時計を止めて二段ベッドの下に寝ている弟を起こし、階段を降りる。途中で強烈な酒の臭いがしてきた。
弟も「くっさー」と鼻をつまみながら階段を降りる。
キッチンからママが夜勤に出掛ける前に用意してくれた朝食のサンドイッチと牛乳を持ってリビングルームへ向かう。
酒臭いにおいの元はそのリビングルームから漂っていた。
ボクは両手が塞がっていたので弟に引き戸を開けてもらう。
するとテレビの前に布団が敷いてあり、そこに掛け布団がはだけて黒い下着だけ身に付けた女性が寝ていた。
ボクたちがどうしたものか迷っていると、その女の人は目を覚まし掛け布団で体を隠しながら敷き布団の上に座った。

「あっ、おはよ。こんな格好でごめんね」
ママより少し若い感じのその女の人は酒臭い息を吐きながらガサガサの声でそう言った。
「おはようございます」
どんな状況でも礼儀正しいボクたちは、声を揃えて挨拶をした。
でも、こんな所で呑気に朝ごはんを食べている場合ではないので、ボクたちはキッチンに戻って食事を摂ることにした。
引き戸を閉める時に「なんかホントごめんよ、パパとはただのお友達だからね」って女の人が言ってたけど、それにはなんと返したら良いのか分からなかったので、そのまま放置してしまった。

食事を終えると、弟はママが帰ってきて保育園に送ってもらうまでも間、子供部屋に戻った。
ボクは身支度を整えてランドセルを背負うと父がちょうど寝室から降りて来た。
「おはよう」と言ってボクの頭をガシャガシャ撫でた。
父も相当臭い息を吐き出していた。
父はリビングルームの引き戸を開けて、女の人を呼んだ。
「おい、送ってくぞ」
その時には女の人はもう派手なワンピースを着て、花の香りがする香水を手首に振りかけているところだった。
ボクたちは一緒に玄関を出た。
父が家の鍵を閉めていると「行ってらっしゃい、学校楽しんできてね」と女の人に言われたから「うん、行ってきます」と答えた。

父は車のエンジンをかけ、タバコに火を点けた。
女の人は助手席に座り、口紅を塗り始めた。
ボクは父の白い車が走って行くのを見送ってから学校へ向かって歩き始めた。

ゆる~く 思いついたままに書いてます 特にココでお金稼ごうとは思ってませんが、サポートしてくれたら喜びます🍀😌🍀