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【侵し、侵され。】④侵し続けるだけの日々


幾種類ものブルーが重なって出来たような複雑で濃く青い空の下、見るからに不健康そうな白く細いひょろひょろな体をした僕が、めでたい色したパラソルに隠れ、波打ち際ではしゃぐみんなのことをぼーっと眺めていると、声を掛けられた。

「海、入らないの」

見える範囲の体の殆どの部分はチョコレート色に綺麗に日焼けしていた。対照的に、肩の先と首の付け根の間から小高く盛り上がった胸の丘の中途にかけて(本当はパイナップルイエローのビキニタイプの水着に隠されたところまで)は、そこだけ滑らかで繊細な布を纏っているかのように白くアンバランスに晒されていた。僕はその白い肌の弾力を確かめてみたい気持ちを抑えながら答えた。

「あまり日焼けしたくないんだ。肌があんまり強くないから。君はよく焼けているね。スポーツでもやってるのかな」

話しながらも彼女を観察する。背はそう高くはなさそうだ。細くすらっと伸びた腕。太腿やふくらはぎには、筋肉が無駄なくほどよくついている。短く切り揃えられた髪からは風に揺られて小さな耳が見え隠れする。少し童顔で好奇心が溢れ出しそうな瞳。そして僕の視線は、体格からしたら大きめの、やはりそこだけ不自然に見える柔らかそうな胸元へと戻った。

「うん。陸上部。この間の大会で終わっちゃったけどね。走ることが好きなの。でも泳ぐのは苦手で。ねえ、私も隣に座っていい?」

言いながら彼女は、僕が答える前にもう椅子に座っていた。そして紺色の網目のバックから、シースルーの白いブラウスを取り出し袖を通した。

「私はミキ。よろしく。君はキヨト君だっけ」

「そう。キヨト。よろしく」

ミキは運動は得意だけど泳ぐのだけは苦手だということ。だから水が怖くてみんなとは離れて僕のいるパラソルの方へ来たこと。僕は痩せっぽっちなこの体型をあまり気に入ってないけど、肩幅があって少し日に焼ければ悪くないと言ってくれたこと。今、彼氏彼女がお互いにいないこと。大学に進学するからここの土地から離れること。

僕とミキは、みんなが遊び疲れて戻ってくるまでそんな話をしていた。

帰り際、スマホの連絡先を交換して別れた。



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僕たちは連絡を取り合い、逢うようになった。

それから付き合うようになるまでに、そう時間はかからなかった。


僕は彼女のまだ日の光に侵されていない、白い膨らみに夢中になった。手で掴むと水風船のように形が変わり、掌の感触でも視覚的にも楽しんだ。彼女の湿った狭い入り口へと挿入すると、温かな襞が僕を包んだ。

今、僕は侵している。ミキの体内に侵入して、彼女の領域を侵している。その興奮で僕は程なく果てた。


ミキは母親とのふたり暮らしをしていた。僕は彼女の母親が留守をしている時を見計らって彼女の家へ遊びに行くようにしていた。

僕の家には一度も彼女を連れて来なかった。彼女は僕の家にも行ってみたいと言っていたけど、ボロい家で兄貴と同じ部屋だからと言って断った。僕の部屋には誰も入らせたくない。僕の部屋の感想なんて聞きたくもない。僕の領域には決して侵入させない。

彼女の体には夢中になったが、彼女の中身には興味は持たなかった。大学へ進学するまで。それがふたりの共通する認識だった。

彼女は僕の事についていろいろと詮索してくることがあったけど、僕はありきたりで曖昧な答えを返すだけだった。そのうち彼女の方も深くは探ろうとしなくなった。僕の頭の中、心の内は侵されることはなかった。


高校を卒業すると、お互いスッキリと別れた。彼女の方も、僕があまりにも心を許さないので、割り切っていたのだろう。最初から期限も決まっていたのだし。そして、僕が彼女の体だけを侵す関係は終わった。



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地方の大学へ行ってからも、ミキに対するのと同じような関係で女の子と付き合った。何人かの女の子の体内に侵入して、それで自分は満足していた。

ミキの時と違うのは、関係をもった女の子たちから一様に、最低だとか自分勝手だとか狂ってるだとか体だけにしか興味がないんでしょだとかホントに愛してるのだとか罵られたり問い詰められたりしたこと。3人の女の子からはビンタをくらった。でも適当なことを言って誤魔化すか、それが通用しなければだんまりを貫いた。それでも耐えられなければ、その場からいなくなれば良かった。そして誰とも長くは続かなかった。僕の方もそれは望んではいなかったけど。

大学の生活じたいは楽だった。これまでのように同じ人間とずっと教室に閉じ込められる事もなかったから。必要なだけの単位さえとれれば、あとは自由だった。猫のテンはいなかったけど、読書は好きなだけ出来たし、温もりが欲しければ女の子と寝れば良かった。大概、快適な生活をおくることが出来た。誰にも侵されずに。



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大学を出ると希望通り、残業の少ない地元の役所へと就職できた。有休休暇も積極的に取得できる。実家へは戻らずにマンションを借りた。広くはないけど、自分ひとりのテリトリーとしては充分だ。いずれは別のマンションの一室を購入しよう。そう考えていた。

仕事は特に不可もなく、無難にやれていた。昇進の話も出たが断り続けた。それでも30歳を過ぎると受けざるを得なくなった。下のままの方が気楽ではあったが、まあ仕方がないだろう。仕事の間は自分を殺していればいい。私にとっての仕事とは、自由に使える自分だけの時間を有意義に過ごすために、犠牲になる時間を売る行為だ。ただやり過ごせればそれでいい。

女性に関しては、30歳を迎える頃から興味が無くなった。いや、興味と言ったら最初からなかった。私は性欲という自分の秩序を乱すものを、女性の体を借りて処理していただけだ。私には有り難いことに、ただその性欲があまり無くなってきたというだけの事なのだ。今というこの世界の中では、自分の理想に近い状態に近づいてきている。素晴らしい。


私は42歳を迎えたその日まで、その平穏な生活を自分なりに楽しんだ。誰にも侵されない、自分だけの日々を。

酷く暑かった夏のその誕生日までは。




《続く》

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