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Odd Eyes


このネコちゃん、左右の瞳の色が違うよ。右目がサファイヤブルーで左目がゴールドだー。綺麗なんだけどなんだか見ているこっちを不安に感じさせるね。


僕はあの時の君の言葉を思い出し、ひとり苦笑いしていた。



あれはまだ僕達が付き合って間もない、春に差し掛かったばかりの日の事だった。僕達はふたり並んで近所の公園を散歩していた。陽射しは暖かくなってきたのに吹きつける風はまだまだ冷たく、君は僕の腕に絡みつき、セーターの脇の間に鼻を埋めてきた。

「この匂い、好きだよ。とっても落ち着く」

君はそう言って、はにかむような笑顔を僕に見せてくれた。

その直後、白い毛を砂で汚したか細い体でベンチの下から覗いていたのがあのネコだ。

君は僕の腕を引き、ゆっくりとそのネコに近寄りながら、瞳について感想を言った。

「このネコちゃん、左右の瞳の色が違うよ。右目がサファイヤブルーで左目がゴールドだー。綺麗なんだけどなんだか見ているこっちを不安に感じさせるね」

確かに僕もそのネコの瞳を見て、妙に不安定な感じに思えたので君に同意したのだった。

「ねえ、知ってる? こういうのオッドアイって言うんだって。オッドアイの猫は幸運を運ぶんだってさ。日本でも『金目銀目』って呼ばれて縁起がいいらしいよ」

「へー、そうなんだ」

僕はどうにもそっちの話は信じ難く、気のないような返事をしてその奇妙な両目を見つめていたのである。




「ねえ、あんたはなんでこんな時に嫌な笑みを見せるわけ? ほんとに性格破綻してるよね」

「あっ、ごめん」

今、僕は君から別れ話をされたところだった。

君は僕の至らないところを並びたて、散々説教をした挙げ句、別れようと言った。

少し下げた視線をもう一度、君の瞳に戻す。

やっぱりだ。あの時のネコのように気持ちが読めない。不安になる。

もうこれで何回目だろう。

ちょっと気にくわない事があると、すぐに別れ話を持ち出す。今日だって、少し前まではあんなに嬉しそうに笑っていたのに。

あの日と同じ公園に夕陽が射し、君の片方の瞳を朱く染めた。

君の即席オッドアイを僕は見つめる。

ベンチの下から「ナ~~」という間の抜けたネコの鳴き声が聞こえてきて、ふたりで吹き出すように笑った。




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