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雑居ビルの階段で感情を解き放つ女

仕事帰りの夜の街で、綺麗な女性と腕を組んで歩くサトルとばったり出くわした。

サトルとは高校の頃からの7年来の友達だ。
今でもたまに、その頃からの友達数人で集まって遊んだりしている。
ついこの間会った時には、彼女なんていないって言ってたのに。

「あれっ、ユミじゃん」

「あらっ、こんばんは。綺麗な女性連れちゃって、彼女さん?」

その女性は少し怪訝そうな顔をしながら、サトルから腕をほどいた。

「そう、最近つきあい始めたんだ。メグミ、可愛いでしょ」

「もう、どこでそんな綺麗な人、見つけたのよ」

サトルは目玉が見えなくなるくらいまで目尻を下げて嬉しそうな顔をして、彼女の方を見た。

「会社の同僚の紹介でね、会った瞬間オレの一目惚れ」

二人はお互いを見つめ合って楽しげに笑う。

「そう、良かったじゃない。ずっと彼女できないって騒いでたものね」

「おいユミ、そんなこと言わなくていいだろ」

「いいじゃない、そのくらいのこと」

「おふたりはどういうお知り合いなんですか?」

少しバツの悪そうな顔をしているサトルの間を埋めるように、彼女が質問した。

「あっごめん、紹介が遅れたね。こちらは高校の同級生のユミちゃん」

「はじめまして、ユミです。メグミさん、サトル君をよろしくね。ホントに女っ気なくて、みんなで心配してたんだから」

「おいっ、だからおまえそういうのやめろって」

あせるサトルを見て、彼女はくすりと笑っている。

「あっ、じゃあ私、そろそろ行くね。おふたりのじゃましちゃ悪いから」

「なんだよそれ」

「サトル君も彼女だいじにするんだよ。じゃあね」

私はもう幸せそうなふたりの顔を見ていられなくなって、足早にそこから立ち去った。

複数の飲食店が入った雑居ビルに駆け込む。
階段を数段上がったところで我慢していたものが溢れ出る。
いちど堰をきって流れ出した感情は自分でも驚くほど激しく、漏れる嗚咽がなかなか止まらずにいた。

「あーあ、ずっと前から好きだったのにな」

言葉にしたらまた涙が出た。

「次に会ったら告白しようと思ってたのに」

伝えられずにいた自分を恨んだ。

「なによあんなにデレデレしちゃってさ」

羨ましかった。

「おまえなんかよりいい男、見つけてやるんだから」

強がってみた。

「私の方があんたなんかより、ずっとずっと前からサトルのこと好きだったんだから」

「私の方があんたより、ずっとずっとサトルのこと知ってるんだから」

叫んでいた。

顔を上げると、エレベーターに乗り込もうとするカップルが、手を繋いだまま驚いた顔でこちらを見ていた。
その顔がなんとも滑稽で、腹の底から笑いがこみ上げてきた。



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