見出し画像

家族で七夕祭り

地元の七夕祭り。ボクは父に手を引かれている。
ママは弟の手を引いて、ボクたちの後ろを歩いている。
祭りの会場となっている商店街にはたくさんの飾りつけが吊るされているが、人を避けるのに精一杯でゆっくり見ている余裕などボクにはない。
人混みの中、発せられる熱気で汗が止まらない。
七夕飾りから垂れ下がる派手な色のビニール紐が、顔やら腕にひっついてくる。
喉が渇き、屋台で売られているジュースやかき氷に目が向く。でもボクは父に買って欲しいとは言えないでいる。

商店街を抜けると、露店から発する油くささの混じった生ぬるい風が体に纏わりついた。
「何か食べるか?」
ボクは黙ったまま首を横に振る。
父はアメリカンドッグにケチャップとマスタードをたっぷりかけてかぶりつく。もう片方の手にはビールの入ったプラスチックのコップを掴んでいる。
弟が、もう疲れて歩きたくないとママに駄々をこねる。
ママが金魚すくいをしようと提案し、弟が嬉しそうに同意する。
お酒がまわって赤ら顔になった父は、でれでれした顔でお店のお姉さんをからかうように話し掛けている。
ママは弟の手を取って一緒に掬うが、なかなかすくえない。
父がボクにもやれと言って、露店のお兄さんにお金を渡そうとするが、ボクはそこでも首を横に振る。
弟はおまけで貰った金魚の入ったビニールの袋を持ち、ニコニコと機嫌良く笑っている。

ママがソフトクリームを3つ買ってきてくれた。
その内の一つをボクにもくれた。
弟が途中でソフトクリームを落とし、ベソをかく。
ママが食べかけのソフトクリームを弟に渡した。
ボクが縁石に腰掛けると、半ズボンから出た膝にポツンと冷たいものが落ちてきた。
やがて暗い空から強く雨が降り始め、アスファルトを黒く染めた。ボクたちはアスファルトから立ち昇る匂いと冷気を感じながら、駐車場まで急いで戻った。
笹に括りつけた短冊が濡れてしまう事だけが気になった。
〈家族が仲良くずっといられますように〉
という願いは結局、叶えらる事は無かった。


この七夕祭りが父と弟も一緒の、ボクの家族での最後の記憶だ。
この数ヵ月後、ボクの知らないうちに父と弟はボクらの家から居なくなった。
ママに訊いたら、父は他の女の人の所へ行ったんだって。
その女の人が弟のことを気に入ったらしく、一緒に連れて行ったんだとさ。
突然がらんとした家は寂しく思えたけど、一ヶ月もすればすぐ慣れた。
寧ろママを独占できて嬉しくさえ感じていた。
もちろんそんなことはママには言えないけどね。




ゆる~く 思いついたままに書いてます 特にココでお金稼ごうとは思ってませんが、サポートしてくれたら喜びます🍀😌🍀