見出し画像

ドルフィンキックと写真集、大人の階段昇るボク

昼休みに友達とお弁当を食べながら話をしている時、ついうっかり「ママ」と言ってしまった。いつも学校では気をつけていたのに。
その一言でボクは友達グループから馬鹿にされ、クラス中から嗤われるようになった。
男子たちからイジメられて、もう学校なんて行きたくないなって思ってた。それを救ってくれたのが水谷未希(みずたにみき)だった。
水谷さんは国語の成績がいいという印象はあるが、その他では特別目立つ事はなく静かな女の子というイメージだった。
それがボクを助けるために男子たちにビンタを喰らわした時には、ボクだけではなくクラスの皆が驚いた。
その出来事があった日からイジメを受ける事が無くなったので、水谷さんには感謝しかない。お礼を言えてないのが心に引っ掛かってはいるのだけど、水谷さんはその日以来、人を寄せ付けないオーラを放ち始めたので、声を掛けられないでいた。

そうそう、中学時代で水谷さんが皆を驚かせた事がもう一つあったんだった。
それは夏の体育の授業中。プールで水泳をしていた時だった。
泳ぐのが苦手なボクは先生の目を避けながら、なるべくプールに入らなくて済むように順番をごまかしていた。
突然、女子たちからがどよめきが起こった。そして、やがてそれは歓声へと変わっていった。
「あんなにずっと潜っていて大丈夫かしら」
「すごい、すごいよミキ」
「ミキがんばれーっ」
ボクもプールの中の水谷さんを探すと、彼女はプールの底スレスレ潜水していた。25メートルを折り返したところらしい。水を掻く姿はとても気持ち良さそうで、ひと掻きする度に身体はすいーっと進行方向に進み、三掻きほどでプールの半分のラインを越えた。
二往復したところで跳び跳ねるように水面から浮上する姿は、ネイビーブルーのスクール水着の光沢も手伝って、まるでイルカのように見えた。正に水を得た魚といったところで、爽快な表情をしていた。
皆の歓声を浴びながら身軽にプールからあがると、ショートの髪を両手でかき上げてからタオルを取りに向かった。しかし、バスタオルで髪を拭い、顔をあげた時にはもう、心を殺したいつもの無表情な水谷さんに戻ってしまっていた。

思い出したと言えば、もう一つ。
水谷さんに助けられた日、家に帰ると玄関にビニール紐で縛られた本が置いてあった。よく見るとママにみつからないように隠してあったアイドルの写真集だ。4冊が纏めて縛られている。
すると、ママが玄関までやって来て「こんなイヤらしい物捨てるからね」と冷たく言った。ボクは恥ずかしいのと怒りがごちゃ混ぜになり、昼間の出来事も手伝ってか「イヤらしくなんかねえわ! おまえの方がよっぽどイヤらしいことしてんだろ」なんて初めてママに暴言を吐いてしまって、びっくりし過ぎてぽかーんと口を開けてあわあわしているママを見ていられなくて、気持ちの持って行き場所もわからず写真集の束を掴み、二階の自室へと駆け上がった。

その日からボクはママのことを「ママ」と呼ぶのをやめた。
今思えば、あれも大人になるための階段の一段だったのだろう。
ボクはその日、複雑な思いを抱えながらマスターベーションに勤しんだ。もちろん写真集に写るアイドルの際どい水着の中を想像しながら。



ゆる~く 思いついたままに書いてます 特にココでお金稼ごうとは思ってませんが、サポートしてくれたら喜びます🍀😌🍀