黒い職場見学 (A社 その1)

とある日の昼に、とある派遣会社から電話が掛かって来た。

「近くて通勤便利ですし、今コロナのご時世ですから案件自体も取り合いになってますし、期間限定で皆さん繋ぎのつもりで応募される方多いですから~」

そう言われて、A社のテレフォンオペレーター案件に勧誘された。

正直、絶対無理だと思っていた職種である。
そもそもテレオペはNG職種として登録していたはずなのに…そこまでして人を集めねばならんのか?
たとえ内容がセールスではなくても、どういう物かはわかる…アレか、と苦い思い出しか浮かばない。
そして更には直感で、この派遣会社のやり方は汚いなと思った。
…ここでコロナ禍を引き合いに出さんでも良いだろ?
それを言われたら職にあぶれた全ての者が、二の句も挙げられないじゃないか。
あぁ、もうこれしか無いのか…。
即答はしなかったが、一晩悩み苦しんだ。
その位、A社でのテレオペ就業には覚悟が必要だった。
ブラック臭は電話越しからも漂っていた。

研修は、悲惨だった。
講師が説明するのだが、入れ歯が合わないようでフガフガと何を言っているのか全くわからず、不快な発音にイライラは募った。
資料も、抜け漏れ追加に変更の嵐で、説明する責任者達の段取りの悪さに辟易もする。
更に人数も大量、しかも年配者多めで、三密をすっかり無視した物理的環境に生きた心地がしなかった。

いざ実践も、やはり「過酷」の一言。
見ず知らずの相手に電話を掛け内容を説明するも怒鳴られ、「早くしろ」と急かされ言葉に詰まるとガチャ切りされ、責任者に相談すると「もう掛けて来ないで下さいと言われるまで掛けろ」と言われる。
コール音が続けばそれはそれで別のアプローチに切り替えられるが、規定回数までは毎日電話しなければならない。
年配者が多いせいか、皆怒鳴り声の如く大きな声で話す。
喋り難いからとマスクを外して飛沫を飛ばしながら大声でのやり取り…やめてくれ、こんな狭い空間で。
申し訳程度のわずかな窓開けも、「寒いから閉めて」と窓際男性が閉じてしまう…おい、お前は背広を常に着ておけ、そういう座席位置なのだから。
座席は日々変わるが、持ち込み禁止のはずの私物筆記具を使う人間が圧倒的に多く、机の上も座席の回りも消ゴムのカスまみれになっている事もあった。
除菌ティッシュは室内に4つだけ、それを70人以上が取り合うのだから、すぐ無くなるでしょ…。

休憩も、ほぼ休まることは無かった。
多分各種法律を無視した収容人数がその建物内に存在していて、どんなに時間をずらしても至る所でひしめき合うのだ。
廊下も扉も擦れ違いが出来ない幅で、何度も肩を壁にぶつけた。
休憩室は座席の取り合いで、何かを口に入れていないと「すみません、もう良いですか?」と次の人に追い出される。
なのに、多くを占める期間限定就業の年配者達は、マスクを外して大声で雑談するのだ…「派閥」の皆様は離れたテーブル越しもお構い無しに怒鳴り声。
…こんな空間、「居たたまれない」では済まぬわ…行き場を失って結局執務室に戻って椅子に座っているだけ。
気持ちの切り替えなんて、出来るわけなかろう。

全国各地のテレオペ案件全てが、ここまで強烈だとは思っていない。
A社が特殊なのだ…と信じたい。
でもこれ以来、派遣会社全て、「テレオペNG」の登録を改めて確認しまくった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?